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しあわせの樹
プロローグ 「ねー、おはなし、きかせて、きかせてー!」 「かみさまのおはなしのつづき。きかせて。」 晴れ渡る空の下、ティルナノグのはずれにある大きな木の下で本を読んでいた女性。 彼女のもとに、今日も村の子供たちが集まってきた。 彼女は本から目を離し、ふふっと微笑むと、近くに置いてあった石に腰掛ける。 吹き抜ける風が、彼女の緑の髪を優しく揺らす。 「ねーねー、きょうはだれのおはなしをしてくれるのー?」 「このまえの、ヘイムさまと12せいせんしって、すごかったなー。」 「こんどは、ヘイムさまよりすごいかみさまなの?」 口々にたずねる子供たちを、彼女は静かに見つめる。 鮮やかなエメラルドの眼が、遠くを見つめた。 「そうね…。今日お話するのは、神様じゃないわ。」 えーっ、と子供たちが不満の声を上げるが、彼女は付け加える。 「でもきっと、神様よりも強い人たちよ。」 子供たちは興味をひかれた表情で、いそいそと彼女の前に座った。 好奇心にみなぎったたくさんの目を前に、 彼女は、自分の思いが未来へ伝わることを、祈った。 かつて、ユグドラル大陸と呼ばれ、グラン暦という暦が 使われていたこの地。それらの言葉が使われなくなって久しい。 光と闇の竜。十二聖戦士。血脈で連なる、聖戦の系譜。 すべてが、この大陸において「神話」へと昇華されていた。 そして…。 人は今でも、この大陸で生きている。 「じゃあ、始めましょう。セリス様とユリア様のお話よ―――。」 この大陸の中央、に、青々とした木々に覆われた森がある。 その中で一か所だけ、広場があった。 その広場は草花が生い茂る緑の野原となっており、 前面には数人の名が刻まれた一つの四角い石が安置されている。 そして、広場の中央。一本の大きな樹が、周囲を見守っていた。 さんさんと照るやわらかい春の陽を受け、淡い桃色の花が、 あたたかく、ひそやかに咲いている。 生きるものも死んだものも、人も動物も花も、 来し方を振り返り、行く末を眺め、誓いを新たにする。 明日への一歩を定め、踏み出すちからを…、 しあわせを生み出す、樹。 「セリス様…わたしは、しあわせの樹になりたい…」 これは、世界の幸せと人の幸せとの波間で考え続け、 あくまで人として、人のしあわせをどこまでも強く追い求めた…、 ふたりの真実の物語である。 |