「ユリアの日記」〜第四章・聖戦編 Part3



グラン歴 778年 3月 20日
作者・鵜楽氷水様
私は思い出しました。
私の犯した罪が何であるかを。
私の欠けたオルゴールの音が何であるかを。


先日マンフロイが私の牢の元へとやってきました。
私は特に構えませんでしたし、またその必要も無いと思っていました。
何故なら奴は私にとって憎むべき存在でありましたし、そのような存在にたじろぐ気持ちも私は持ち合わせていなかったからです。

マンフロイは私の牢に入ってきて、いきなり私の胸倉を掴みました。
私はじっとマンフロイの目を見ていました。

「気分はどうですか?ユリア皇女。」と尋ねられると、
「尋ねるまでも無いことでしょう?良いとでも思っているのですか?」と返しました。


「そうですね、今まで仲間の元で平然とぬくぬくと過ごして来た貴女にとって、今の環境は劣悪極まりないでしょうね…。」
「分かっていらっしゃるなら、もっと良い環境に変えてくださらないかしら?
 王室育ちですから、このような粗野な場所には不慣れですのよ。」
私は最大級の嘲りを持ってマンフロイを見下し、挑発しました。

するとそれを知ってか知らずかマンフロイは胸倉を掴んだ手を高く上げ、そのまま私を牢の奥へと放り投げました。

「貴女はとことんお姫様のようですね。自分の事だけで精一杯で、それ以外のことに無頓着で、容易く傷つける。」
「どうして世界が今のような状況になったか、どうしてユリウス様がロプトウスの魔道書に手を伸ばすまで力を欲したか貴女には分からないでしょう。この世で最も強い力を生まれながらに与えられた貴女には……ね…」

「どういう事?私がお兄様を狂わせたとでも言いたいのかしら?」

「いえ…貴女だけの責任ではありませんよ……
では、こういう事実はご存知ですかな?あなたにはもう一人、兄がいる事を……」
そう言われれば、私の頭には一人しか思い当たる人物はいません。
青い髪、青い瞳、解放軍リーダーの光の皇子、私に前を向く力を与えてくれた……

「セリス…ですね。」
そう言うと奴は首を振って口元を歪ませました。


あまりに頭が痛く、喉も渇くので今日はもうこれから先の事を書けそうにありません。
続きはまた明日書こうと思います。

グラン歴 778年 3月 21日
作者・鵜楽氷水様
奴が言うにはもうひとりの兄とは…アイーダという方の間の子供らしいです。
アイーダという女性は…お父様の腹心…とだけ聞きました。

年のころは私より10程上……
最初はマンフロイの出任せだと思っていたのですが、奴がどうして「お兄様はファラフレイムを使えないのか」という疑問を投げかけてきたとき、奴の言う事が正しいと自分に言い聞かせました。

そう、そのもう一人の兄、サイアスがファラフレイムを扱うのです。
奴が言うには幼いお兄様はそれを知ってしまった……

そして私がナーガの血を引いた……
…もう何から書いていいのか分かりません。

グランベルは元々ヘイムの直系…とりわけナーガ使いのみが王位継承権を持ちます。
お父様の場合は、お母様が政治能力を持っていなかったのでお父様が王…皇帝としてお母様の代わりに政治を執っていました。

グランベルはヘイムの国家なのです。ユグドラルはヘイムの世界なのです。

いくら皇帝夫妻の間の第一皇子であろうとも、ナーガの聖痕が出ない者は王にはなれないのです。

お兄様は小さい頃皇帝になると言っていました。ですがナーガの聖痕は私に出ました。
聖痕が出た後、お父様は私を…女帝にするべく前よりも厳しくなったように思えます。
ですがそれは仕方なの無い事。お母様の代わりに政治を採っているお父様がナーガを使えないお兄様を次期皇帝として推す事は周囲の反感を招きます。

私にバーハラの焼け野原を見せたのもそれに由来するでしょう。

そして私はお父様の厳しさゆえに兄に不満を漏らした事もあったかもしれません。
お兄様は……どのような思いで私の声を聞いていたのでしょうか?
私はどれ程お兄様を傷つけたのでしょうか?


これが……私の罪。私の欠けた一音。

この世界が、何より私がロプトウスを生んだのです……

だから………私はこれを贖わなければなりません……
ですが……この世界を崩壊させた罪を、一体どのような形で贖えるというのでしょうか?

グラン歴 778年 3月 26日
作者・鵜楽氷水様
イシュタル…姉さまが私の所にやってきました。
雷神と呼ばれた彼女を…私は恐れたことを覚えています。ですが…私の記憶の中で彼女は、
どこまでも優しい姉に他ならないのです。

彼女は看守に目配せして、その腕に雷をちらつかせながら人払いをしました。
「ユリア様…申し訳ありません。貴女をこんな所に縛り付けるのは本意ではないのですが、
私の力ではどうしようもなくて…」
とイシュタルが私に言うと、私は気にするなという類の事を述べました。

「イシュタル…貴女は一体どうしてここにいるの?お兄様は今どうしてらっしゃるの?」
「ユリウス様は今バーハラ城にいらっしゃいます。私がここに来たのは……
私が出陣することを貴女にお伝えしたかったから…」

私が一瞬驚いた顔を見せたのでしょう。頭の良い姉さまは私の言いたいことを理解してこう続けました。
「解放軍はフリージ城を間も無く制圧します。もう帝国は滅びるしかないのです。ですが……
私は帝国と……ユリウス様と最後まで共にある事を望みます。」

「どうしてですか?貴女も分かっているでしょう?お兄様は昔のお兄様と違うという事が…」
イシュタルは極上の微笑を浮かべながらこくんと大きく頷くと、
「ですがユリア様。私はあの人の傍にいてあげたい…
あの孤独な方に付き添う最後の臣下になりたい…それが…もしこの戦いがかつての聖戦のように伝説として語り継がれるようになった時、あの人を救う事になるかもしれない…

……何と愚かな…と思われるかもしれないけれど私は私の信念を曲げません。」
そういったイシュタルの瞳は悲しい影が映っていましたが、私に彼女を止められるはずがありません。
そして私はイシュタルに聞かねばならないことがありました。
「イシュタル…はファラの血を引く…私たちの兄のことを知っているの?」
そう言うとイシュタルはまた頷きました。
「えぇ、私は…ユリウス様から聞きました。ファラの血を引く兄がいると。
では僕はユリアに何をしてあげらるのかと。力が欲しい、力が欲しい…と何度も何度も私の肩を借りて、涙を流していました。

「そう…ありがとう…。ねぇ、イシュタルは、私を愚かだと思う?」
「いいえ、貴女を愚かと罵るならば、私など一体何になるのでしょう?
…私があなたに望む事はただ一つだけです。貴女が貴女を愚かと思うのなら…
あなたは生き延びてするべき事をして下さい。この悲しみと過ちの連鎖を区切る力が…
私には無い力があなたにはあるのですから。

「…イシュタル…お兄様と最後まで一緒にいてくれてありがとう。私にはできそうも無いから…」
そう言うとイシュタルは、
「ええ。あなたは生き延びてください。ユリア様…あなたは私にとって妹のような存在でした。
ティニーを…知っていますね。あの子もまたあなたと同じように、私にとっても可愛い妹でした。
…あの子に伝言をお願いして良いでしょうか?きっと…戦場ではいえない言葉だから…

私が頷くと、
「私にとって、暗いアルスター城であなたは一筋の光だった…と…」

そう言うとイシュタルは私に一回会釈をするとリワープで去っていきました。

きっとイシュタルが私に残した伝言は、解放軍に戻れというイシュタルの願いだったのでしょう。
生きていなければ、解放軍に戻らなければティニーには会えないから…

ですが私がすべき事…がまだ分かりません…何を持って贖えば良いのか…まだ分からないのです。

グラン歴 778年 3月 30日
作者・鵜楽氷水様
ユリウスお兄様と…久しぶりに顔を合わせた時の事を思い出しました。。
あの人は一体誰なのでしょう。
私の知っているお兄様は…もっと優しく、そして寂しく笑われる方で…

少なくともあのような怪物ではありませんでした…

そして私は怖くなりました。
兄はロプトウスが憑依して、今のような元の兄とは似ても似つかぬ姿になったのでしょう。
そして今のお兄様に、元の自我があるのかどうかは分かりません。
そして竜族と直系者を繋ぐ媒体こそが神器なのでしょう。

つまり竜族に…自分自身を乗っ取られる可能性は、私にもあるのです。
もしナーガの力が私に強く影響するのなら…恐らく私はお兄様を手にかけるのでしょう。

ナーガを手にすることにより、私が私でなくなるかもしれない…

神器を持つ方々は皆…このような言いようの無い不安を抱えているのでしょうか?

だとしたらやはり12聖戦士直系は…並々ならぬ精神力の持ち主なのでしょう。

……私は自らの血に打ち勝つことができるでしょうか?

グラン歴 778年 3月 31日
 マンフロイが牢の前で、「儀式の準備はもうじき整う、明日にでも、おまえは…」 と笑って語り、そのまま去っていきました。
 わたしを追い詰めるつもりでしょうか。ですが、わたしはもう迷いません。

 イシュタルのこと、母様の思い出、解放軍の経験、兄様の姿…。 さまざまなことを思い返し、考え抜いたこの数日。

 どんな困難にも、わたしは打ち勝ってみせます。

グラン歴 778年 4月 3日
作者・鵜楽氷水様
キョウワタシハマンフロイ様カラシュツゲキメイレイヲイタダキマシタ。

スベテヲハカイスレバヨイラシイデス。
ワタシノコノチカラヲモッテスレバタヤスイコト。

スベテヲハイニカエテミセマショウ。

グラン歴 778年 4月 9日
 …不思議な…気持ちです。
 信じられないような…とても懐かしいような。

 遠い…遠い闇の底に沈んでいた意識。
 破壊を続けていたわたし。

 「ユリア…ユリア…!」
 どこか遠くから、セリス様の声が響いていました。
 それを包むように、わたしに呼びかける、みんなの声が…。
 その声のするほうへと、わたしは意識を集中します。
 無限の闇から目を覚ましたとき、わたしの目にうつったのは、 期待に目を輝かせた、仲間みんなの姿でした。

 わたしは…戻ってきたのです。
 解放軍という、もうひとつのふるさとへ。

 わたしは、自らに戻った記憶をセリス様に説明しようとしました。
 でもセリス様は、「もう何も言わなくていい」と…。
 ラナさん、ラクチェさん、オイフェ様、シャナン様、 そして兵士のひとりひとりに至るまで、みんなの表情には、 解放への意欲がみなぎっています。
 そんなみんなの顔を見て、わずかに残っていたわたしの 迷いも吹っ切れました。

 わたしは、決めました。 伝説の武器、ナーガを手に取り、ロプトウスを倒します。
 きっと、ユリウス兄様は助からないでしょう。 わたしは兄殺しの罪をかぶり、一生を生きることになります。
 それでもこれが、わたしが自分で決めた道です。

 わたしは戦う。逃げたりは、しません。
 そう、宣言しました。

グラン歴 778年 4月 10日
作者・鵜楽氷水様
どうやら私はマンフロイに洗脳されていたようです。

……今となっては奴の行動に合点がいきます。
あの日もう一人の兄の事を私に教え、私を絶望のふちに叩き込み、洗脳をしやすくしたのでしょう。

ですが考えてみればマンフロイもなんと愚かで悲しい者だったのでしょうか?
ロプトを排除された世の中で、身内たちの期待を一身に背負い、そして世界をここまで変えてしまった。

そしてそうさせたのは間違いなく12聖戦士です。
私はそのような世界を変えねばなりません。

奴の死を無にしないためにも。第二の奴を生まないためにも。

…第二のお兄様や私を生まないためにも。

そしてお兄様と私のあのバーハラでの誓いを実現するためにも。


グラン歴 778年 4月 11日
作者・鵜楽氷水様
ティニーにイシュタルの伝言を伝えました。
私は彼女が涙を流すとばかり思っていましたが、意外にも彼女は気丈に振る舞い、ただ
「ありがとう」とのみ言いました。

私は何もいえませんでした。

私がいない間に、ティニーとイシュタル。二人の間で交わされた物もあったのでしょう。
それは私が口出しすることはできません。ですが…これだけは伝えたかったのです。
イシュタルは敵将。もう彼女に関する話をすることは好ましくないでしょう。…だけど…
私たち二人は「イシュタル姉さまの妹…だから姉さまの事を…話したくなったら、話してね…」

するとティニーは私の首にかじり付き力強く抱きしめます。
ただ、抱きしめるだけ。強く強く。こんなか弱い体にどこにそんな力が隠されているのかと思う程。

グラン歴 778年 4月 12日 
作者・鵜楽氷水様
今日はラナがずっと一緒にいてくれました。
私より若干背の低いラナが私をぽかぽかと殴る……ので思わず胸が抜けてしまうのではないかと思いました。

ただ二人でいただけ。二人でであったときの事を話しました。杖をもらったこと、包帯の巻き方に驚いたこと、世間知らずだと笑われたこと、トラキアで私が不安になったこと……

「今まで…色々あったね。でも私、ユリアと出会えてよかったよ。ユリアと友達になれてよかった。」
「ラナ……」

「私は聖戦士の血を濃く引いていないから…ユリアの苦しみは分からないかもしれない。
だけど、受け止める準備だけはいつでもバッチリだから!だから…何か辛い事があったら、
言わなくても良い、この肩だけは貸してあげるから……」

ラナや他の仲間の存在は、私にとって未来へ向かうことのできる道を示してくれる大切な存在です。

あぁ、本当に……皆と出会えて良かった…




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