「ユリアの日記」〜第三章・青春期編 Part2




グラン歴 777年 4月 4日
 「あれ?ユリア。久しぶり…!」
 突然そんな声をかけられ、わたしは驚きました。
 振り向くと、昔シレジアで会った天馬の女の子が、手を振っていました。

 彼女…フィーさんは天馬騎士で、彼女のお母さんがシグルド様と レヴィン様とともに戦ったように、セリス様とともに戦いたい、と言いました。
 「ユリアも一緒だなんて、うれしいわ。一緒に頑張りましょ、ねっ!」
 フィーさんに肩を叩かれ、わたしはよろめいてしまいました。

 「おい、気をつけろよ。お前みたいな頑丈な女の子ばかりじゃないんだから」
 彼女の背後から、魔道士の男の人が姿を現しました。彼も昔、魔法を 見せてくれた人…アーサーさんです。彼は、すぐフィーさんとけんかを始めてしまいました。
 「何よ、失礼ね!あたしだってか弱い女の子なのよ!」
 「槍ぶん回してか?誰も信じちゃくれないよ?」
 「そんなことないわよ!ペガサスナイトはダイエットしなきゃいけないし、 それに…」
 「だからといってあの子をぶっ叩くことはないだろ」
 「そ、そりゃあ悪かったわよ。でも…」

 いつ終わるとも分からない言い合いは、でもとても微笑ましく、 互いに心を許していることが伝わってきました。
 彼らのように、明るく、うちとけて何でも言えて、早口で会話して 冗談を飛ばしたり、心を許せる間柄。
 わたしには、そういうものが足りなかったように思います。

グラン歴 777年 4月 18日
作者・鵜楽氷水様
今日ラナとラクチェに、『ユリアは世間知らずね』と声を揃えて言われました。
私としましては人並みに本を読んできたと思いますので…一般常識は身につけているつもりでしたが…

リボー城の城下町へ三人で行ったときです。
各々の用事を済ませるために各自途中で分かれたのですが……

また三人で集まった時、ラナがとりわけ喜んだ顔をしています。

『リライブの杖の修理代がこれだけだったのよ』
私はその額を見て驚きました。何と私と同じくらい使い込んだリライブの杖の修理代が、私の約半分ほどで済んでいるのです。ラナ曰く
『店主の言い値なんかで代金支払っちゃ駄目よ。一体どれくらい利益を得ていると思っているの?』
らしいです。
ラクチェが更に畳み掛けます。
『そうね…半額にしてもなお利益が出るんだから値引いているんだろうし…』
私はそのような事を全く考えていませんでした。修理屋さんは、ギリギリの値段で修理してくださっているとばかり思っていました。まさか半額でも利益があるなんて…
私はフラフラとしていまいましたが、その直後に二人に雷を落とされました。
『ユリアは世間知らずね』と……。ちょっと悔しいです…でも……

まだまだ修行が足りないようです………

グラン歴 777年 4月 28日
 リボーの城に、久しぶりにレヴィン様が戻ってきました。
 わたしは、解放軍とともに戦うという決意を伝えました。 レヴィン様は、そうか、とだけ言いましたが、その顔を見るかぎり、 わたしに満足しているように思われました。
 わたしが去ろうとすると、待て、と言い、こう声をかけてくれました。
 「これからも、自分の信じることをしろ。迷ったら、みんなが支えてくれる。」

グラン歴 777年 5月 3日
作者・鵜楽氷水様
夜中にお城の台所で洗い物をし終えた時に、
台所にセリス様がやってきました。
『あ、ユリア。いつもお疲れ様。喉が渇いてしまって…お水貰えるかな?』
セリス様はいつも大声で指揮をし、檄をとばし、作戦会議を行っています。喉が渇くのは当然です。

私がコップに水を入れてセリス様に渡そうとした時、私はしまった!!と思いました。
水場に置くわけにはいかないあのオルゴールを、テーブルの上に置いていたのですが、それをセリス様に見られてしまいました。私は何喰わぬ顔でセリス様に水を渡すと、
『これ……オルゴール…だよね?ユリアの?』
はい…と答えるとセリス様は、
『音を…鳴らしてみても良いかな?』と尋ねます。
いいえという訳にはいきません。私はどうぞという他ありません。

セリス様が箱を開けてネジをキリキリと回す間、私はあの日の事を思い出します。

あの日、台所で、………て以来私はこのネジを回したことは無いのです。

あぁ、私を責める音楽が流れ出します。私の心は凍りつくようで、セリス様がこのオルゴールについてどう思うのか等考える余裕もありませんでした。ですがセリス様からは意外な一言がぽろりと出ました。

『あ……この曲…愛しい人…だよね?あれ…でも何か…ちょっと…ん?』

…………
そこで私はもう逃げも隠れもできない事を悟ると、あの日の事を話しました。
私が不本意ながらオルゴールを壊してしまった事、それ以来オルゴールの音色を聞いていない事、そして私の失われた記憶に何か関係があるかもしれない事を………


するとセリス様は残念そうな顔をして、
『たとえ音が一音欠けていても、僕はこの曲を、分かったよ?』
どういう事ですか?と私が問い直すと、
『一音欠けただけで、もう鳴らさないなんて、オルゴールが可哀相だよ。
それに……一音も欠けていない物なんて、ないんじゃないかな?僕も……僕に今ほどの力があったなら…助けられた人がいっぱいいた。そしてそれを助けられなかった事は、僕のオルゴールを一音欠けさせた。』

音が途切れてしまったので、またセリス様はネジを回しました。あのメロディーが頭を貫きます。
『一音欠けてしまった曲を、不完全なものとするか、それに別の曲…自分だけの曲を見出せるかは、本人次第だけどね……

逃げてはいけないという事ですか?とまた問い直すと、
『さぁ…ユリアがそう受け取ったんなら今逃げているんじゃないの?立ち向かうかどうかは……それはユリアの自由だ。僕にはそれを強制する権利も、また義務も無い。』と返されました。
私は考えました。私は私自身を知りたい。そのためには…どんなに辛い過去があろうとも……

逃げてはいけない。皆が未来に目を向けているのに、私が過去から逃げていては取り残されてしまう……だから、だから私は……

セリス様は私にオルゴールを差し出し、
『どうする?』と訊きました。

私は震える手でそれを受け取り、また震える指でネジを回しました。
すると私の手からあのメロディーが紡ぎだされました。あの時以来でしたが、あの時の様な気持ちではありませんでした。
それを見るとセリス様はまだ口をつけていなかったコップ一杯の水を一気にあおり、私の背中を叩いて、
『頑張ったね。』とだけ言ってコップを洗って台所から出て行きました。

たったこれだけの出来事が私を大きく変えたような気がします。
たとえ私がどんなに大きな罪を犯していたとしても、それは私の一部であり、それを放棄する事は私自身を放棄する事でもあったのです……だから私は前に進めなかった……

もっと皆の力になるために、皆と共に居る為に…私は辛くても……耐えようと思います。

グラン歴 777年 5月 6日
 軍議に出席しました。
 次の相手は、砂漠にいる暗黒魔道士。これに対抗するには、 砂漠に足をとられないよう、こちらも魔道士、それも光使いを主戦力とすれば 有利となるだろう、とレヴィン様が発言しました。
 皆の視線が、わたしに集まりました。

 セリス様が心配そうにしていましたが、わたしは覚悟を決めました。
 「わたしがお役に立てるのでしたら、戦わせてください。」

 素早い呪文詠唱による追撃、連続攻撃と、魔法防御について、 わたしはアーサーさんやラナさんから訓練を受けています。
 闘技場の客席に行って、わたしならこう戦う、というイメージトレーニングも 積んできました。

 出陣は、明日。
 あとは…どれだけ、覚悟を決められるか、です。
 まだ迷う気持ちがないといえばうそになるけれど、 仮決めでも、自分に責任を負う気持ちで…。

グラン歴 777年 5月 7日
 心を、鬼にしました。

 「敵」の呪文を左右に避け、砂嵐をかいくぐり、光の魔法を当てていきます。
 闇魔法を受けても、精神を保ち魔法防御陣を張れば、傷は浅くてすみます。
 わたしの攻撃を受け苦しむ「敵」が最後の力を振り絞り闇魔法の詠唱をはじめたとき、 わたしは…彼より早く呪文をとなえ、とどめを…さしました。

 「敵」、「敵」、「敵」…。
 彼らも人間なのだ、という意識を、ずっと心の底に封印しました。
 最後に穴を掘り、彼らの遺体を埋め、手を合わせるまでは…。

グラン歴 777年 5月 14日
 セリス様、ラナさん、フィーさん、スカサハさん、ラクチェさんとともに イード神殿に向かっていると、目の前に長髪の剣士の男性が現れました。
 セリス様とラクチェさんが目を輝かせて、彼に駆け寄りました。

 彼、シャナン様はセリス様たちよりも年長で、バルムンクという 伝説の武器を操り、解放軍の中心の一人なのだそうです。
 伝説の武器とは、どれほどの威力なのでしょうか。 そしてそれを扱うには、どれほどの覚悟と自制が必要なのでしょうか。 わたしには想像できません。

 シャナン様はわたしを見ると、はっと顔をこわばらせましたが、 すぐに手をさし出し、よろしく、と言ってくれました。

 その後ろから、小柄な女の子が現れました。 パティさんという盗賊だそうです。話してみると、とても明るくて 元気で人なつっこい人です。
 わたしは、盗賊とは村を荒らす無法者とばかり思っていたので、 恐かったのですが、どうも偏見だったようです。 世の中は広いですから、これからもいろいろ学んでいかなければならないと思いました。

グラン歴 777年 6月 1日
作者・R・グループ様
リボーの街を出てから約2ヶ月
今日、ようやくメルゲンの町に到着しました。

解放軍の皆さんは、危険なイード砂漠を越えるためずっと大変な思いをなさっていたので、 ようやく、休息が取れるとみなさんお喜びです。

でも、最近のセリス様はとてもお疲れの様子です。

昨日の晩、わたしはセリス様とレヴィン様が言い争うお話を聞いてしまいました。
レヴィン様はだいぶセリス様を叱っていたようですが、 セリス様にレヴィン様との喧嘩の理由を尋ねても教えていただけないし……
私もセリス様の心の支えになれるように、頑張りたいと思います。

グラン歴 777年 6月 3日
作者・R・グループ様
今日はラナと一緒に、メルゲン谷で取れる川魚を使ったお料理を作りました。

はじめて作ったので上手くできたのか、自信がなかったのだけれど 解放軍の皆さんには、喜んで食べてもらえました。 とくにラナのお兄さんのレスターさんは、何度もおかわりをしていました。

ただ、セリス様がお料理を残されたのが気がかりです。 今までお食事を残されたことはなかったのですが……

セリス様のお悩みが分かってあげられるようになりたいです。

グラン歴 777年 6月 4日
作者・R・グループ様
セリス様宛てにレンスターのリーフ様から封書でお手紙が届きました。
お手紙の内容は軍師のアウグスト様が代筆されたもののようですが……

私はセリス様の書斎にお手紙をお持ちしました。
セリス様にお手紙をお渡しすると、セリス様は険しい表情になって、その場で開封して内容を確認されていました。

すっと一読すると、セリス様はまた辛そうなお顔をされてしました。
私はいてもたってもいられなくなって、お悩みの理由を尋ねてみたのです。

「セリス様、お悩みの原因はなんでしょうか? もし私でよければ…… 理由を話してください。 セリス様がお辛そうな顔をされていると、皆さんが心配します」
「そんなに顔に出ていたかな…… みんなに心配をかけてしまったのかもしれない」
「お手紙になにか書かれていたのですか?」
「……レンスター軍の軍師アウグスト殿からの手紙だよ。日に日に内容が厳しくなってくる。読んでみるかい?」
セリス様はそういって、私に手紙を読ませていただきました。

拝啓 イザーク解放軍 セリス皇子殿

すでに我が方は包囲されて5ヶ月、再三連絡申し上げている通り、 我がレンスター軍は敵中に孤立し、明日の命もわからぬ状況です。
皇子はメルゲン谷で自軍の兵士たちに休養をとらせているようですが、 我が軍は城を完全に取り囲まれ、休養はおろか補給もままならず、 既に敵によって倒される者より、病死や餓死者の方が上回っております。
もし我が方の救援に来られるつもりであるなら、昼夜を問わず前進し、リーフ王子を救援されるべきだと考えます。

しかし、セリス皇子に二心あり、アルヴィス皇帝に代わり全世界を手中にしようとお考えなのでしたら、 このまま我が軍を見捨てて我々が殲滅された後、疲れたフリージ軍を打倒するのがよろしいでしょう。
北トラキア地方の帝国への叛乱勢力は我が軍に結集しており、セリス様の覇道を妨げる者はおりません。

セリス皇子の一刻も早いご決断を我が主君も願っておられます。

 レンスター王国王子 リーフ代筆
            軍師アウグスト

私は手紙を読んですぐにいいました。
「そんな…… セリス様が、リーフ様を見捨てられるなんてことはありません! セリス様はリーフ様を助けるため大変苦労されて砂漠を渡って来られたのに……」
「だけどユリア、リーフ王子達は敵に囲まれて休む間もなく戦っている。私も一刻も早く救援に行きたい、しかし…… そう簡単にはいかないんだ。イード砂漠のダーナ領主のブラムセルが帝国と通じてイザークに通じる街道を封鎖してしまった」
「イザークから武器や食料は届かないのですか……」
「そうだよ。もし補給が無いままトラキア半島に入れば、私達は大軍だ。自分達の食料がなくなれば、兵士達は村を襲って略奪することになるだろうね」
「!」
「さらに悪い知らせがある。アルスターよりフリージ軍の魔道部隊がこちらに向っているらしい。イシュトー王子やライザ将軍がそうだったように、フリージの魔道部隊は侮れない。だから、動くに動けないんだ……」
「セリス様…… やっとお悩みの理由がわかりました。セリス様、私はリーフ様とは一度もお会いしたことはないけれど…… 同じ気持ちだと思います」
「同じ気持ち?」
「セリス様に信じる道を進んで欲しいということです」
「……いや、私は聖人じゃない。イシュトー王子を殺したことで悩んで、レヴィンに叱られる、そういうただの人間だよ」
「いえ、それでもセリス様は前に進もうとなさいます。リーフ様もそれを信じてレンスター城でずっと戦っておられるのだと思います」
「リーフ王子はなぜレンスターを放棄しないんだろう…… レンスターを放棄すれば、すぐにでも合流できるはずだけど」
「リーフ様は、セリス様が前に進み易くなるよう。帝国軍を引きつけておかれるつもりなのだと思います」
「リーフ王子が…… 一度も出会ったことはないのに。だけど…… そうだね。そうかもしれない」
「だからセリス様、前に進んでください。リーフ様もそう望まれるとおもいます」
セリス様はしばらくお考えになったあと、決断されました。

「……わかった。ユリア、前に進もう。すぐに会議を開く、シャナンとオイフェを呼んで来てくれ」

セリス様の私室にすぐにシャナン様とオイフェ様はいらっしゃいました。
「私とオイフェは騎士達を率いてダーナへ向う。シャナンは歩兵隊を率いてメルゲン東の森に布陣してフリージ軍を迎撃して欲しい」
「セリス様、ダーナの傭兵騎士達はなかなか強兵だと聞きます。我が軍の騎士達は数も少なく、苦戦は免れないでしょう」
「セリス、フリージ軍の魔道部隊は強力な魔法を使う。歩兵隊にも多くの被害がでるぞ」
「苦戦は承知している。だけど、こうするしか方法がない。ラナ達シスターはメルゲンに待機させて、負傷者をメルゲンに運び込むようにする」
「分かりました。すぐに準備させましょう」

すぐに会議は終わりました。そしてセリス様は私に言ったのです。
「ユリアはメルゲンに残ってラナ達シスターの手伝いをして欲しい。怪我人はたくさんでるだろう」
私は決意してすぐに答えました。
「セリス様、私もシャナン様の部隊に入れてください。私も戦います」
「ダメだユリア。危険すぎる」
「危険なのはセリス様も同じです。それに私でも魔法使いが相手なら多くの仲間を守れます」
「確かにアーサーもユリアの魔力は凄いっていっていたけど……」
「お願いします」
「ユリア…… わかった。こっちのほうも早く片付けて救援に行く。だから、無理はしないでくれ」
「分かりました…… ふぅ、よかった」
「シャナンの部隊の入れるのがそんなに良かったの?」
「いえ、セリス様のお顔色がよくなって良かったです」
「そんなに気分悪そうに見えたかな?」
「ええ、気づいていないのはセリス様だけだと思います」
「みんなに心配かけちゃったかな。だけどもう大丈夫だ。行こうユリア」
「はい」

その日のうちにセリス様は解放軍の皆さんの前で次の作戦を発表されました。
皆さん活気づいて、準備をはじめています。

セリス様とはしばらく離れ離れになってしまうけれど、 私もセリス様のためになるよう精一杯頑張ろうと決意しました。



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