「ユリアの日記」〜第二章・思春期編 Part2



グラン歴 774年 7月 28日
作者・鵜楽氷水様
 今日はレヴィン様が、とっても素敵な物を下さいました。
”オルゴール”というとても小さな、手のひらの中に充分収まる箱で、ネジを何回か回すととっても素敵な音楽が流れるのです。
『珍しいから』私に買ってきて下さったらしいのですが、この頃の私の不安な思いを少しでも紛らわそうとしてくださったのでしょう。
私は何よりもその事が嬉しかったのです。

そしてその箱なのですが、その箱には表面がキラキラした石が敷き詰められていて、箱を開けると、小さな小物入れと音が流れる部分があるのです。
私はそこに何を入れようかとあれこれ思い悩んでいましたが、レヴィン様と初めて一緒に暮らし始めた家の近くで見つけた、今はドライフラワーにしてある花を入れておくことにしました。
こうしておけば、今までの、家からの隙間風によって花が崩れてしまうのではないかという心配もなくなりました。引越しをする時も、これで花が崩れてしまう心配もありません。

レヴィン様はこのオルゴールをここからはるか南にある、『ミレトス』という町で見つけたそうです。

ミレトスという町は、そんなに豊かな町なのでしょうか……?
私も、いつかミレトスに行けたら、その豊かな町並みを歩いてみたいと思いました。

グラン歴 774年 10月 1日
作者・鵜楽氷水様
今日いばら姫という本を読みました。
子供向けの本でしたが、私にはいくつか分からない事がありました。

何故、いばら姫はいくら自分を助け出してくれたとはいえ、会って間もない王子様の求婚をすぐに受け入れる事が出来たのでしょうか?
また、王子もどうしてはじめて会い、話したばかりの姫に求婚をする事が出来るのでしょうか?

愛というものは、長い時間を掛けて育むものだと、別の書物で読みました。
では、この二人に愛は無いのでしょうか?

私には、愛という物が分からないという事と、どうしたら愛を知る事が出来るのかという事をを、レヴィン様に尋ねると、
「とても難しい事であり、私がそれを知るにはもう少し自分自身を知る必要がある。」
という答えを与えて下さりました。
とても納得できるような答えではありませんでしたが、私は確かに物事を知らなさ過ぎるので、今はその答えで納得する事にしました。

私はかつて誰かを愛した事があったのでしょうか?そしてそれを思い出すことが出来れば、
私は愛というものを、理解することが出来るのでしょうか?

グラン歴 774年 12月 5日
作者・ちょーじん様
今日はなんだかとても怖い夢を見ました。幼い頃の夢でした。
顔ははっきりと見えませんが、わたしの慕っている人たちがみ んなわたしの元を去ってゆくのです。
最初にレヴィン様…。
それからやさしそうな女性。
威厳のある風格をした男の人。
わたしと同じくらいの背丈の…男の子。
もしかしたらわたしの過去に関係のある人たちなのかもしれま せん。
みんながわたしに謝りながら去っていきました。
幼い頃のわたしは、なぜみんなが謝っているのかわかりません。
ただ心細く泣きながら、何もない暗い道を歩いていました。
するとわたしを呼ぶ声が聞こえました。
わたしよりいくつか年上の男の子が、こちらに手を差し出して 呼んでいるのです。
わたしはすがる思いでその手を取りました。
またわたしの元から去ってしまうのではないかと不安になりな がら。
けれど男の子は、わたしの手を引いてぐいぐいと引っ張ってゆ きます。
わたしは遅れないように夢中で追いかけました。
その男の子はわたしを明るい場所まで連れて行くと、振り返っ て微笑みました。
わたしはその顔をよく見ようとしたのですが、夢はそこで覚め てしまいました。
大事な人がわたしの元から去ってゆく夢。起きた時わたしは泣 いていました。
でも最後に会った男の子は、わたしの目が覚めるまでずっと傍 にいてくれました。
これは、何かを失う代わりに何かを手に入れる夢なのでしょう か…。
いえ、何かを手に入れるために何かを失うのかもしれません。
わたしはなぜだか、その男の子に会ってみたいと思いました。

グラン歴 774年 12月 28日
 村の占い師に、会いに行きました。

 わたしは、シレジアに来るまでの記憶を失っています。
 今までは、昔のことはどうでもいいと思っていました。 昔はどうであろうと、今はこのような立場であることに変わりはないからです。
 ですが、最近…昔の自分を知りたい、と思うようになってきました。

 わたしの両親のこと、昔のこと…、占ってもらおうとしました。しかし、
 「おお…あなたの中はあまりにまぶしい光が輝き、その外は あまりにも深い闇に包まれておる。わしごときには、とても見通せぬ…」
 そう言われ、手がかりは得られませんでした。

 占い師の館にあった水晶玉の中に、光る何かが見えました。 それは、「光の精霊」だそうです。「こんにちは」と声をかけると、 「こんにちは」と、わたしの頭の中に響きました。
 何か、とても懐かしい感覚を覚えました。

 占い師さんに、光使いとは珍しい、ナーガの遠縁かもしれませんな、 と言われました。
 自分を知る手がかりに、なるかもしれません。

 レヴィン様には、次の日から、光魔道の訓練を始めるぞ、と言われました。

グラン歴 775年 1月 7日
作者・鵜楽氷水様
私たちは、どんどん北へ向かいます。
最初レヴィン様に連れられた場所は、きれいな花が咲いていました。
川には心地よい冷たさの水が流れていました。

けれど、今の場所は花も咲かず、また川の水は、手を入れれば手が凍るような冷たさです。
お料理を作るのも、一苦労です。前は貯蓄された食料の他に、山菜などを採って来て、レヴィン様にご馳走も出来たのですが、今は材料が手に入らないのです。
とは言え、昔よりも比べようも無いほど料理の腕は上がりましたので、レヴィン様にさほど苦痛は与えていないように思えます。


けれど…………もしロプト教団の人たちがもっともっと北へとやってくれば、私たちはどうすれば良いのでしょうか?
もっともっと北へ向かって、大地が無くなってしまえば、私はどうなるのでしょうか?
レヴィン様は私を捨てられるのでしょうか?そして教団に捕まってしまうのでしょうか?


冷たい水に触れながら、そんな事を思っていました。

グラン歴 775年 2月 28日
 レヴィン様の蔵書から、いつも通り光魔道の本を引っぱり出そうとしたところ、 隣に「杖」の教本を見つけました。
 いろいろな思いが浮かびました。
 魔法は敵を倒すだけ。光魔法はあたたかいけれど、恐い気もします。
 でも杖ならば、困った人を助けることもできます。 …わたしの近くに、そんな人がいないのが残念ですが。
 …わたしは決心して、杖の教本のページをめくりました。

 かわりに、レヴィン様のために料理をしました。
 ここで取れるのは、あまり栄養のない野菜ばかりだけれど。 それでも、色とりどりの野菜を工夫して盛りつけてみました。赤、緑、白の野菜が きれいに並ぶと、おいしそうだと感じました。

グラン歴 775年 4月 3日
作者・鵜楽氷水様
今日は、レヴィン様のお知りあいという方にお会いしました。その方は、私と同じ年頃の男の子を連れていました。私と同じような銀色の髪をした男の子でした。
私たちは、レヴィン様たちのお話が終わるまで、外で魔法の練習をしていました。
私は杖、男の子は風と雷の魔法。
男の子があんまり一生懸命なので、「どうしてそんなに一生懸命なの?」と聞きました。
すると男の子は、「僕には、悪い奴に攫われた妹がいて、その子を助け出すために強くなるんだ。」
と答えました。そして、妹と揃いであるというペンダントを、私に見せてくれました。
そのペンダントは、私にはよく分からないのですが、あまり高価なものではなさそうに見え、さらに金属は傷んでいて、宝石には無数の傷がありました。
それは、男の子にとっていかにそのペンダントが大切な物であるかという事と、その男の子が、たくさんの苦労をしてきた事を表していました。

「君は髪の色も雰囲気も妹に似ているから、ますます妹に会いたくなっちゃったよ。」
と言うと、また嬉しそうに魔法の練習を始めました。


兄……妹?私はこの言葉に胸が騒ぐのを覚えました。
私には昔兄がいた………?

ですが、どうしてこんなに胸が痛むのでしょうか?
彼を見ていると、兄妹というものは、とても幸せな物のように思えるのですが………

グラン歴 775年 7月 6日
 レヴィン様が、どこかに出かけました。
 杖も使わずに、突然ワープして、夜にはまたぶらりと帰ってきます。
 そんなことが、人に可能なのでしょうか。

 レヴィン様が帰ってきたあと、彼は椅子で眠っていました。 作っている書類が、ちらりと目に入りました。

 帝国の政治…アウグストの戦略…ベルクローゼンの動静…闇の降臨祭… セリスの成長…レンスターとイザークで連動して蜂起… 決戦は2〜3年後…切り札は光の皇女…

 とても難しい言葉が並んでいました。

 レヴィン様は、どんな人なのでしょうか。
 世界を動かすほどの、とてつもなく大きな存在ではないか、そう感じるときがあります。
 こんど、正面から聞いてみましょうか…、世界の情勢と、レヴィン様の役割とを。 …でも…わたしはそれに耐えられる自信がありません。 しばらく、レヴィン様の考えをいろいろ推測してみることにします。

グラン歴 775年 8月 14日
 レヴィン様に、留守番を言いつけられました。追っ手のこともあるので、 家に閉じこもっているつもりでした。

 ところがお昼ごろ、家のすぐ近くの草原に、天馬が舞い降りてきたのです。 とてもきれいで、思わず家を出ていきました。

 天馬に乗っていたのは、ひとりの女の子。わたしと同じ年ぐらいのその子と、 いろいろな話をしました。
 天馬にさわることもできて、とても、胸が高鳴りました。
 彼女には、いろいろなことを教えられたのです。

グラン歴 776年 1月 31日
 また、魔法使いの男の子に会いました。こんどは、炎を使っています。
 彼がファイアーを使うと、炎の精霊が近づいてきます。 そのとき、炎の精霊が彼だけでなく、わたしのまわりも回って、 話しかけてくることに気づきました。

 わたしには、炎魔法は使えません。それでも、そんなに炎の精霊と 相性がいいのは、炎使いの血でも引いてるんじゃないのか、と彼は言います。
 「周囲を精霊がぐるぐる回るのは、精霊と仲良しのしるしなんだよ、って、 母さんそう言ってたよ」、彼はそう言っていました。

 光の血筋と、炎の血筋。そんなにいろいろな血を引くものなのでしょうか?
 話半分に聞いておこうと思いました。

 帰ってみると、レヴィン様がひげの騎士と長髪の剣士の方と話しているようです。
 そこでの会話のいくつかを、影でこっそり聞いてしまいました。 レヴィン様…、シレジアの王様だったのですね。



 第二章〜思春期編〜 Part3へ



 前に戻る

 トップページに戻る