「ユリアの日記」〜第一章・幼年期編 Part2




グランれき 768年 11月 6日
 今日は、ふしぎなものを見ました。
 あさ、あたまがふらふらとして、わたしの頭にへんなものがうかびました。
 どこかの川にあるたくさんの水があふれて、たくさんの家が ながされてしまいました。家にいた人は、水の下に消えてしまいました。 とてもこわくて、かなしかったです。
 わすれようとしたけれど、何だかとてもふあんなので、 おとうさまとおかあさまに言いました。
 おとうさまとおかあさまは目を見合わせると、おとうさまは 部下のリデールさんを呼んで何かめいれいしました。
 おかあさまは、だいじょうぶよ、きっと、と言いました。

グランれき 768年 11月 8日
 おとうさまが、ユリア、ありがとう、と言いました。
 近くの川にたくさんの雨がふったけど、川ぎしの土を高くかためていたり、 近くの人たちをひなんさせていたりしたので、みんな助かったのだそうです。

 おかあさまは、ユリアもシャーマンののうりょくがあるのね、と言いました。 シャーマンは、このさきに起こるかもしれないことを見ることがあるそうです。

 ユリアが何かを見てふあんだったら、だれかにそうだんしなさい。そして、 そういう時に、今じぶんができることがあったら、こうかいしないよう、 かならずやっておきなさい。そう、おかあさまは言いました。

グランれき 769年 3月 22日
 今日、小さくてまぶしいものとお話しました。

 おしろの上の、お日さまが当たるばしょに行くと、 とてもまぶしかったです。そのなかで、目をよくひらいて空を見ると、 明るい、あたたかい、ふしぎななにかが、ふわふわとうかんでいました。
 「こんにちは」とあいさつすると、わたしの頭の中に、 「こんにちは」とひびきました。「いいお天気ね」と言うと、 「だからわたしたちがいるのよ」と言ってくれました。

 おかあさまは、それは「光のせいれい」よ、と言いました。
 光のせいれいとお友だちになれたらいいな、とおもいました。

 そういえば、地下にたんけんに行ったときのユリウスにいさまは、 だれもいない暗い中でだれかとお話していたみたいでした。
 何かのせいれいなのかな。

グランれき 769年 5月 13日
作者・M様
今日は、ほんとうに楽しい1日だったわ。
今日は、つえのれんしゅうに、マンフロイがくることになっていたの。そうしたら、お兄さまが、マンフロイがイヤだからって、急にねつを出してしまわれたの。きっと『けびょう』だけど、本当にねつがあって、本当にびょうきに見えたの。私もマンフロイは大キライだから、マンフロイのおこうちゃに、こっそり、ひましゆをいれてやったの。
そうしたらね、マンフロイったら、お話のとちゅうで、急に青くなったり、赤くなったりして、ぜんぜんあつくないのに、ハンカチで何回も顔をふいて、「もうしわけありませんが、今日はここまで」って、いなくなちゃったの。さくせん、せいこう〜♪
そしたら、お兄さまのねつも、急にさがって、元気になったの。
とっても、うれしかった!

あっ、つえのれんしゅうは、マンフロイの代わりに、お母さまが見ててくれたの。
だから、れんしゅうは、サボってないの! えらいでしょう? お父さま!

グランれき 769年 7月 31日
 今日はおとうさまが、にいさまとわたしのところに来て、 「大きくなったら何になりたい?何をしたい?」とききました。

 ユリウスにいさまは、「ちちうえのように、りっぱなこうていになって、 こうへいなせいじで国とたみを守りたいです」と言いました。
 でも、わたしは何もこたえられませんでした。 大きくなったわたし…、うまく思いえがくことができません。
 わたしが「ごめんなさい、わかりません」と言うと、 おとうさまは、「むずかしく考えなくてもいいよ。おまえが好きな、 この人みたいになりたい、という人はだれ?」と聞きました。
 わたしはなんとなく、
 「おとうさまや、おかあさまや、にいさまみたいになりたいです」
 と答えました。
 おとうさまとおかあさまとにいさまは、声をあわせてわらいました。

グランれき 770年 4月 20日
作者・鵜楽氷水様
今日は、きおくそうしつについて、パルマーク先生からおそわりました。
きおくそうしつというのはとてもこわいです。いままでに自分がかんじたこと、知ったことなどすべてのことをわすれてしまうらしいです。

わたしは、「どうしてきおくそうしつになるの?」とききました。
するとせんせいは、
「わるいまほうをかけられたり、またはわすれたいほど苦しいきおくを持ってしまったときに、なってしまうそうですよ。」
とこたえてくださいました。

「じゃあ、わたしはだいじょうぶね。わすれたいほどくるしいきおくなんて、なにもないわ。お父さまやお母さまにしかられたこともあるけれど、それはわたしがわるいからだし、お兄さまとけんかしたときも、なかなおりするときは、けんかしたときよりも、なかよくなっているから。」

すると、となりで算術をしていたお兄さまが、
「わるいまほうはどうするの?」とわたしにききました。
わたしがこたえられないでいたら、せんせいが、
「ユリウスさま。妹君が苦しいじょうきょうにあって、あなたのすることはなんです?」とお兄さまにききました。

お兄さまは先生からめせんをはずし、「ユリアにそんなわるいまほうをかけさせないようにするよ……」と言いました。
そのことばがあんまりうれしかったので、「わたしもお兄さまがわるいまほうをかけられそうになったときにはお兄さまをまもります。」
といいました。

すると先生はわらって、お兄さまはますます下をむいてわたしとは話をしてくれませんでした。
なぜでしょうか?わたしはお兄さまの気をわるくするようなことを言ったつもりはなかったのですが……

でもきおくそうしつとはほんとうにこわいです。いままで知っていたひとが、きゅうに知らない人になるのです。
わたしはきゅうにこわくなったので、今となりでねている、にっきを書きおわったお兄さまのてをつよくにぎりました。

グランれき 770年 11月 2日
作者・暁生鞘様
 ユリアが今日書いているのは昨日の日記です。ディアドラお母様にはばれて怒られました。 「昨日の分は昨日書かなきゃ駄目」なのですって。
 ユリウスはちゃんと書いているのに、とか言われたって知らないもん。 ユリアはユリアだもの。大体昨日はそれ位眠かったのに寝られなくて、恐いし… 大体寝られなかったのはユリウスのせいなのに、何か…えっと、そう、不条理だわ、うん。

 新しい部屋とベッドは広くて大きいから たまにわたし達は今でも一緒に寝るのだけど昨日は何だかユリウスがおかしかった。
 いきなり笑い出したり、不気味な声で何か喋ったり、あげくには首を絞めてきたり。
 …ディアドラお母様を連れて戻ってきてみればぐぅぐぅちゃんと寝てたのだけど、 ユリアはとても寝られる心境じゃなかったわよ。
 まぁ、ディアドラお母様の子守唄聞けたから、寝ぼけてたって事で許してあげるけど。

 そう言えば3人で寝たのも久しぶりなのだっけ? 綺麗綺麗な子守唄。 聞いてるうちに安心して寝ちゃったけど、あの曲は何て言うのだろう。 そうだ、今から聞きに行こっかな。

グランれき 771年 1月 9日
作者・鵜楽氷水様
 きょうは、お兄さまといっしょに、この国のれきしについておそわりました。
けれど、いつもはお部屋の中で、先生からお勉強をおそわるのに、今日はなぜか、お父さまが先生です。
しかも、わたしたちをおしろの外につれていって、バーハラからヴェルトマーへのあれた道を通りながら教えてくださいます。

ロプトてい国のこと、12せい戦士のこと、その他いろいろなことをおそわりました。
あまりにたくさんのことをおそわりすぎて、夜ねる前に、全て思い出せないかも……と思ってしまいました。

一とおりのことを話しおえたお父さまは、しんけんなおかおで、わたしたちにこう言いました。
「ロプトウスをしんじる人たちも、わるい人々ではけっしてないんだ。
だから、かれらがロプトウスを信じているというだけで、かれらにひどいことをしてはいけないよ。
わたしと同じように、ユリウスもユリアも、おそらくこの先12せい戦士の力を与えられることになる とおもうが、その力はとてもつよいものなのだよ。
強い力を持つものは、力を持たぬ者を守る義務があるのだから。」


わたしとお兄さまは、まだせい戦士の力というものを、見たことがなかったから、「あまりよくわからないね。」とかおをみあわせました。

するとお父さまは目をほそめて、わたしたちが歩いているじめんをゆびさしました。


「ここのじめんはほかのばしょとちがって、草がはえないままで、まるでしんでしまっているみたいだろう?どうしてか分かるかい?」
わたしはよく分かりませんでしたが、お兄さまはなにか気付いたようで、かおいろがかわりました。

するとお父さまは一さつのまほうしょをとり出されて、
「ユリウスとユリアが生まれる一年まえに、父さまはここの大ちを、父さまのぶきである『ファラフレイム』でやいたんだ。たくさんの人を、このだいちと共にやいてしまったんだ。」


わたしはとてもこわくなりました。今なおくさばなが生えないだいちや、今なおくるしんでいる人々が、わたしの足くびをつかんでしまったかのように、わたしはそのばからうごけなくなってしまいました。

ユリウスお兄さまは少し分かっていらっしゃったのか、お父さまといっしょに歩きつづけていました。
うごけなくなったわたしに気付いたお父さまが、私とお兄さまを、だき上げてくださいました。
まるでわたしをくらやみからすくい出すかのように。

「どうしてお父さまはそんなことをしたの?くるしくはない?つらくはないの?」とお兄さまはお父さまにたずねました。

するとお父さまは、
「ではユリウス。わたしたちはまずなにをかんがえてこうどうするべきか分かるか?」
えっと……とお兄さまはかんがえながらこたえました。
「まず、たみをまもること………」
「そうだ。わたしたちはたみをまもらなければならない。だから父さまはおおくの人をころした。つよい力を与えられたものは、人びとを助けるために生きなければならないからだ。わたしたちは、たみのために生きているのだ。だが、なくなった人びとの上に、じぶんのいのちがあることをわすれてはならない。だからこのさき、どんなにつらいことがあっても、けっしてにげたりせず、おまえたちのたいせつな人々を守まもるためにたたかうとちかいなさい。」

わたしとお兄さまはお父さまのの上で手を取り合って、
「私たち二人はたたかいます。けっしてにげたりしません。」とやくそくしました。
わたしは今日のことを、なくなった人々のをけっしてわすれません。

グランれき 771年 1月 15日
 おかあさまの部屋に、わたしが呼ばれました。
 ユリア、よく聞いて、とても大切な話があるの、とおかあさまは言いました。 なぜユリウスにいさまがいっしょに呼ばれないのかふしぎでした。

 「ユリア、あなたはお父様や母様、兄様のことが好き?」
 「はい、好きです」
 「そう…。それなら、あなたが大きくなったら、あなたの好きなみんなを、 あなたの力で守りなさい。」
 おかあさまが今、なぜそう言うのかはわかりませんでしたが、 わたしは深くうなずきました。
 「ユリア、忘れないで。大切なのは、希望を持つことと、希望を大切にすること。 あなたの本当の希望があるなら、実現できないだろうと思っても、すててはいけません。 どんなにつらくても、前へ生きることをあきらめないで。 どうすれば、理想のようになるのか、考えて、考えぬきなさい。 それが、幸せをつかむ道よ。」
 わたしは、前におとうさまから教わったことを思い出しました。 おとうさまのように、つらくても、大切なものを守るために 必要なことはあるのかもしれません。 でも、あんなことがわたしにできるのか、わかりません。
 「もし、それでも考えつかなかったら?」
 するとおかあさまは、まっすぐにわたしを見つめました。
 「その時は…ほかにも希望がないか、頭をからっぽにして考えてみるの。 ほかの人、大切な人の希望のために、いっしょにがんばるのもいいわ。 どうすればいちばん良いのか、どうすればあなたが幸せなのか。 あなた自身で、しっかりと考えなさい。それが、生きる強さというものよ。」
 おかあさまのお話はむずかしかったのですが、いっしょうけんめい覚えました。

 「あなたなら大丈夫。
  ユリア…強く生きるのよ」

 強く生きる。
 おかあさまのやさしい声とことばを決してわすれないよう、 わたしはふかく心にきざみこみました。

グランれき 771年 4月 7日
 明日は、わたしのたんじょう日です。

 このまえ聞いたおかあさまのことば。いろいろ考えました。

 やっぱりわたしは、わたしのそばにいる、おとうさまとおかあさまと にいさまが、いちばん大切です。そして、すてきなはなよめさんになりたいです。
 にいさまもきっと、りっぱな「こうてい」になるでしょう。 でも……、何か……うまく書けません。
 ………
 きのう「見えた」ことは…、ずっと書かないでおきます。

 はなよめさんになって、とうさまもかあさまもにいさまも、みんなが いっしょにいる「しあわせ」を守ることが、わたしの希望です。

 明日も、来年も、ずっとずっと、みんながしあわせでありますように。



 この日記帳に、翌日以降の日記が記されることは、なかった。

 びりびりに引き裂かれ、黒い血の染みと焼け焦げがついた次のページは、 ユリアがこの日、自らを包むうららかな温もりと無償の愛とに別れを告げ、 十歳前後の若さで波涛渦巻く社会の荒海に飛び込む運命を迎えたことを意味する。

 冷たい雪と迫りくる闇を前に、ユリアがいかにして生き延び、 力をたくわえていったのか。
 それを語るのは、二冊めの日記帳の役割である―――。

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