「ユリアの日記」〜第一章・幼年期編 Part1

 貴重な歴史資料が集まる、バーハラの書庫。そこには公式の歴史記録だけでなく、 私的な文書、たとえば日記も隠れている。中でも、激動の人生を歩んだ 光の皇女・ユリアの日記は、彼女の人となりを知るのに貴重な資料となるだろう。

 数冊に分かたれたユリアの日記はそれ自体が、 彼女の歩みが波乱に満ちたものだったことを示す。

 今回は、その中の一冊め。
 太陽のようにあたたかい愛情に包まれた、 明るく穏やかで幼い少女だった頃の、ユリアの日記。 そのごく一部を、ここに紹介しよう―――。

注:作者名無記入の日記はマルチくうねる作です。



グランれき 766ねん 4がつ 1にち
 きょうから、にっきをつけることにしました。
 おかあさまにわたされた、この「にっきちょう」は、ひょうしに お花がかいてあって、きれいです。
 これからたくさん、にっきをかきます。
 たくさん、いいことがおきて、たくさんにっきにかければいいな、とおもいます。

グランれき 766ねん 6がつ 2にち
 わたしは、おかあさまがだいすきです。
 おかあさまは、いつもにっこりわらっていて、にいさまとわたしに いろいろなことをおしえて、やさしくしてくれます。

 きょうは、おしろの大きなへやに行って、おしょくじのしかたを おしえてくれました。赤いじゅうたんと、大きなつくえがあって、すごかったです。
 フォークとスプーンのもちかたをおしえてくれましたが、大きいので もつのがたいへんでした。そうしたらおかあさんが、わたしのために 小さなスプーンをもってきてくれました。
 ユリウスもユリアもじょうずね、と言ってくれました。

グランれき 766ねん 7がつ 12にち
作者・鵜楽氷水様
きょうおかあさまから、「まじっくしーるど」というおまじないをおしえてもらいました。

このおまじないは、このおまじないをかけたひとを、まもってくれるそうです。けれど、いちどしかきかないそうです。

わたしは、おとうさまにかけてあげる!といいましたが、おかあさまは、
「これから現れるかもしれないユリアの一番大切なな人のためにとっておきなさい。」
といわれました。

わたしはおとうさまやおかあさまやおにいさまよりたいせつな人なんていないわ。というと、
おかあさまはわらって、
「まだその人と会っていないだけよ、会えばひと目で分かるから。」
と言われました。

わたしはきょういちにち、わたしのいちばんたいせつなひとはどんなひとなのか、ということばかりかんがえてしまいました。

グランれき 767ねん 3がつ 17にち
作者・鵜楽氷水様
きょうは、おとうさまとおかあさまのけっこんしきのえをみせてもらいました。
あまりにもきれいだったので、わたしは、
「はやくはなよめさんになりたいなぁ……」といいました。
するとおかあさまが、
「ユリアなら、きっとすてきなはなよめさんになれるわ。」
と、わらっていってくださいました。
「わたしはどんなひととけっこんするとおもう?」
とお父さまにたずねました。
するとおとうさまは、
「とうさまをたおせるほどつよいものでないと、みとめない。」といいました。
そしてそのときおとうさまはとてもこわいかおをされていたので、わたしは「わかりました……」というしかありませんでした。

わたしはとてもしょっくです。
おとうさまよりつよいひとなど、いるはずがないのですから……
わたしはおかあさまのようなすてきなはなよめさんにはなれないのでしょうか……?

グランれき 767ねん 3がつ 19にち
作者・鵜楽氷水様
きょうは「いばらひめ」というほんをよみました。
いばらにつつまれてしまったおひめさまとおしろを、おうじさまがたすけだすおはなしです。
そのおうじさまはとてもつよくて、わるいまじょや、わるいドラゴンをやっつけてしまいます。
わたしはこのおはなしをよんで、このおうじさまならもしかしたらおとうさまよりつよいかも…とおもいました。
このおうじさまがわたしのけっこんするひとだったらいいのに!

あ……でもおしろがいばらにつつまれるのはいや。だってみんなたいせつなひとだもの。

でも、わたしがほんとうにこまったとき、くるしいときにはきっとおうじさまがあらわれて、わたしをたすけてくれたらいいなぁ……
とおもいます。

もしかしたら、そのかたが、まえにおかあさまがいっていた、まじっくしーるどをかけるひとなのかもしれません。

グランれき 767ねん 3がつ 28にち
 きょうは、イシュタルねえさまという人と、はじめてあいました。
 イシュタルねえさまは、わたしより大きくて、とてもすごいです。
 おべんきょうもすごくできるし、まほうもつかえるの。 「はっ!」とさけんで、かみなりのまほうをつかうイシュタルねえさまは、 とてもつよくて、かっこいいです。
 「イシュタルねえさま、すごいです。みならいたいです」と言いました。

 イシュタルねえさまは、あみでちょうちょをつかまえて、 「ユリアにあげるわね」といってくれました。
 わたしは、「まって」といいました。「いいの。ちょうちょがかわいそう」。
 するとイシュタルねえさまは、「ユリアはやさしいのね。 みならいたいわ」といって、ちょうちょをにがしました。

 ふたりともあいてをみならいたいなんて、おもしろいとおもいました。

グランれき 767ねん 11がつ 20にち
 おとうさまは「こうてい」という、くにでいちばんえらい、すごいひとです。 いつもはいそがしくて、あまり会えません。

 今日、「グランベルていこく けんこくきねんび しきてん」 に行きました。
 おとうさまは、りっぱなかんむりとふくをきて、 じょうへきの上でおはなしをしました。すごくたくさんのこくみんの 人たちが、おとうさまにはくしゅとばんざいをしていて、すごいとおもいました。
 おかあさまがわたしたちに、手をふってあいさつしなさい、と言いました。 たくさんの人がいたので、はずかしいとおもいました。
 にいさまが手をふると、みんながよろこびました。こんなに人がいるのに、 にいさまはすごいなとおもいました。
 それで、わたしも手をふりました。こくみんの人たちがはくしゅしてくれて、 うれしかったです。

グランれき 768年 4月 27日
作者・鵜楽氷水様
きょうはイシュタル姉さまが、おしろにあそびに来てくださいました。
わたしとお兄さまと姉さまと三人で、おしろのおにわであそびました。

おにわにはたくさん花がさいていました。
姉さまは、わたしにお花のかんむりの作り方をおしえてくださいました。
けれどわたしは姉さまみたいにきれいに作ることができなくて、かなしくなってしまいました。
すると姉さまは、今まで姉さまが作っていたお花のかんむりを、わたしのあたまにのせてくださいました。

「ユリアにあげようとおもって作ったのよ。」と姉さまはわらって言いました。
そのお花のかんむりからは、お花の良いにおいと、姉さまのやさしい気もちがつたわってきました。

わたしは姉さまが大すきです。だから、
「イシュタル姉さまが本当のお姉さまになってくれたらいいのにな……」と言いました。

すると、姉さまと、なぜかお兄さまも顔をまっ赤にしていました。
二人はしばらくなにも言いませんでしたが、
「そうなったらいいね。」とお兄さまがやさしくこたえてくださいました。

お兄様も姉さまのことが大好きみたいで、わたしはとっても嬉しいです。

グランれき 768年 6月 3日
 今日も、おしろでべんきょうをしました。 パルマーク先生は、読みかきや、おしろのことを教えてくれます。

 おかあさまやにいさまやパルマーク先生は好きです。 おしろにいるのも好きです。
 でも、毎日おなじようなことをしていて、少しだけ たいくつに思います。おへやの外に行ったり、 もっといろんなことを知りたいです。

グランれき 768年 6月 9日
 きょうは、とてもたいへんな一日でした。

 きょうはお休みで、おへやでゆっくりするつもりでした。 でも、たいくつで、どこかに行きたいとおもっていました。
 するとユリウスにいさまがやってきて、ユリア、たんけんに行こう、といいました。 わたしは、そとに出ちゃいけないと言われているからだめよ、と いいましたが、きっとたのしいよ、というにいさまにつられて、 ついうなずいてしまいました。

 にいさまと手をつないで、おしろのろうかをいっしょに歩きました。 とてもひろくて、りっぱなおしろだとあらためて思いました。
 にいさまがおしろのおくにある「とう」に入ると、ぐるぐる回る かいだんを下りていきました。わたしもついていきました。 上を見ると、天井が見えないぐらいとても高くて、下をみると、 底が見えなくて、すいこまれそうでした。

 地下はとてもくらくて、ふあんでした。しばらく、にいさまといっしょに いたのですが、にいさまはへやを見つけると、すぐに入っていってしまいました。 わたしは少しよそ見をしていたので、にいさまを見うしなってしまいました。
 くらい中でひとりぼっちで、とてもとてもこわかったです。
 大きなこえで「にいさま!」と言うと、へやの中からにいさまが 「なに」とこたえてくれました。 わたしがへやに入ると、にいさまは黒くてほこりっぽい本を 手にとって、こちらをむきました。
 そのときのにいさまは、赤くてくらい目をして、ぶつぶつつぶやいて、 それからにやりとわらって、わたしはせなかがふるえました。

 わたしは泣きだして、「にいさま、もういいよ、かえろうよ」と言うと、 にいさまは本を元にもどしました。
 するとにいさまは元のやさしいにいさまにもどって、「ユリア、ごめんね」と あたまをなでてくれて、手をつないでもとのみちをもどっていきました。

 もどってきたら、おかあさまがしんぱいして待っていて、わたしたちは しかられました。ふたりで「ごめんなさい」とあやまりました。
 これからはたいくつでも、あぶないことはやめようとおもいました。

グランれき 768年 9月 5日
 今日は、ディアドラおかあさまとユリウスおにいさまといっしょに、 近くのもりにあそびに行きました。
お花がたくさんあって、うさぎさんやりすさんがいて、たのしかったです。

 木のねっこがあって、くさが生えていて、あるきにくかったです。
おかあさまは、それでもすいすいあるいていました。 なぜはやくあるけるの、ときいたら、おかあさまはむかし 「せいれいのもり」にいたからよ、と言いました。
わたしも、せいれいのもりに行きたい、とおもいました。


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