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報道特集・愛の病棟24時
こんばんは。ユグドラル報道特派員・フィーです。突然ですがあなたは、「病院」というものの実情について、どれだけ 知っているでしょうか。頼れる医師と優しい看護婦たち。 患者たちを怪我や病から救うために存在する白亜の塔。 ですが…。見たことがあるでしょうか。 外の誰の目にも触れぬその壁の中に、めくるめく世界が広がっていることを…。 今回この病院に、セリス様とユリア様がいることが判明。 我々は、病院内でのお二人について、決定的な情報を入手しました。 グランベル病院の真実を、今夜あなたにお届けします。
1.看護婦無用
(医者セリス・看護婦ユリア編)
「次の方、どうぞ。」 ユリアの声に導かれ、診療室にひとりの男が現れた。 黒髪の気の良さそうな少年…スカサハ。だが、その表情には疲れが目立つ。 「実はちょっと風邪気味で…熱があって鼻水が…」 スカサハの説明を、担当医・セリスはやる気無さそうに手を枕にして聞いていた。 そしてセリスはおおざっぱな診察をし、投げやりに言い放つ。 「ああ、風邪だね風邪。とりあえず注射打っといて。」 指示を受けたユリアは注射器を手にスカサハに近づき、袖を捲り上げて腕をつかむ。 その時、セリスの瞳が眼鏡越しにキラーンと暗く光った。 「…待ってユリア!何やってるの!?」 「……注射…ですが…」 セリスのほうを振りかえり、戸惑いつつも答えるユリア。 セリスの声色は、明らかに不機嫌である。 「そんなことじゃなくて。なんでそんな男の手を握ってるの?」 「…いえ、ですから注射をするために…」 当たり前の答えを返しながらも、戸惑うユリアとスカサハ。 セリスは唇をかみしめ、嫉妬に燃えた上目遣いでユリアをにらむ。 やがて、セリスは突然わざとらしいくしゃみを何度かくりかえして、頭を抱え込んだ。 「…ああっ、ぼくも頭痛がする…風邪みたいだ。ユリア、注射を……」 「…セリス様…」 どうしていいかわからず戸惑うユリアと、放置されて開いた口のふさがらないスカサハ。 その場の空気はいつまでも凍りついたままだった。
2.迷医が行く!
(医者セリス・患者ユリア編)
ある日の朝。医院にひとりの少女の姿が見えた。紫がかった銀の長髪をたなびかせ、 お嬢様的雰囲気を漂わせている。 彼女の姿を影から見て、それまでだるそうだった医者・セリスの目がきらりと光った。 彼女が診療室に入る前に、白衣を替え、鏡の前で髪や服のコーディネートをチェックし、 格好よく見える顔の角度まで確認する。 一般患者用のせまい診療室を出て、隣の本格的な診療室に移動し、そこにユリアを呼んだ。 ちなみに、その診療室にはベッドがあり、カーテンで仕切りをつけることが可能である。 「よくここに来てくれたね。さ、お茶でもどうぞ。」 「…はい…?」 目を点にしたユリア。それには構わず、彼女の椅子にクッションを置いたり、 お茶菓子を用意したり、細やかな気遣いで接待するセリス。 まるで高級レストランのようである。 「ぼくに会いに来てくれて嬉しいな。あ、まだ何かほしいものある?何でも用意するよ。」 「いえ、あの…診察していただきたいのですけど…」 「あっ、そうだったのか。それなら言ってくれればいいのに…」 セリスはここをどこだと思っているのだろうか。それはさておき、 ユリアは怪我の説明を始めた。 「…腕を刃物で切ってしまって…傷が…」 そう言ってユリアは腕を見せる。すらりと細くしなやかなその腕。 確かに傷は見えるが、血は止まっており、さほど大したことは無さそうだった。 セリスはそれを見やると、おもむろに聴診器を取り出した。 「それでは、きみの身体を診察するよ。ちょっと上着を脱いで。」 「…それは…なぜ…?ここは外科なのでは…」 かなり間をおいてから、おそるおそるユリアは尋ねる。 セリスは真面目な表情を全く崩さず、じっとユリアを見つめて言った。 「何を言うんだ、ユリア。きみの傷口からウイルスが入って、病気になっているかも しれないじゃないか。 だからぼくには、きみの体のことを詳しく知る必要があるんだ。 心配要らないから、ぼくに任せて…」 セリスの熱意と詭弁に丸め込まれ、ユリアは自ら上着のボタンに手をかけた。 白い肌の上を、セリスの聴診器が這い回る。 「吸ってー、吐いてー…」 セリスは手を当てながらそんな事を言い、ユリアの身体が動く感触を存分に味わって… じゃなくて、診療用のデータを取っている。 そんなひとときが10分…20分…やけに念入りに続いた。 結局のところ、ユリアに出された処方は塗り薬と包帯だけだった。 長大な時間を費やしたあの触診は何だったのだろう。 セリスは壊れ物を扱うようにそっとユリアのすらっとした腕を取り、 すりすりすり…とそれはそれは丁寧にユリアの腕に塗り薬をすり込んだ。そして…。 ちゅっ。 最後に、その傷口にキスをかましたのである。 「…あっ………」 戸惑うユリアに、セリスはぴっと指を一本立てて答えた。 「ユリアの傷が早く治るようにっていう、おまじない。」 この男は医学を何と心得ているのだろうか。 こんなとんでもない医者が、なぜセクハラで訴えられないのか。 その理由はこうである。 「…それとも、ユリアはこういうの、嫌、かな……」 包帯の上からユリアの腕を優しくとりつつ、セリスはユリアの瞳をじっと見つめる。 その視線を受けると、ユリアの眼もぽわ〜んとなってしまい、 彼女は思わずこう言ってしまうのだ。 「いっ、いえ…わたしも…セリス様にでしたら…嬉し…」 ぽっと頬を染めるユリア。どっちもどっちの二人であった。
3.ぼくだけの天使
(患者セリス・看護婦ユリア編)
医学の戦場、外科病棟。 白衣の天使たちは毎日の激務に耐え、病院を駆けずり回っている。 そんな中、今日もナースコールが鳴った―――。 「また特別室のセリス様ね。ユリアさん、行きなさい。」 呆れ顔で指令したのは、アルテナ婦長である。 その時点で、ユリアはすでに準備を整え、ナースセンターの扉から外に出ていた。 処置は適切、心根も優しい。ユリアは看護婦として非常に有能だと 誰からも認められている。そんな彼女だが、今のところそれほど仕事が回ってこない。 それはなぜか。 大量の患者の相手で疲れ果てたラナも、ユリアに助けを求めようとはせず、 ただその後姿を見送るのみである。 「ユリアさん以外だと暴れるんだもの、あの子…しょうがないわねぇ…」 看護婦たちのため息が漏れた。 そう。彼女は、「セリス様専用」の看護婦だったのである。 「ユリア、よく来てくれたね。」 病室に現れた白衣の天使に、セリスの声は明るく弾んだ。 他のどの医者にも看護婦にも、決して聞かせない声である。 そんなセリスの相手をするのが、ユリアとしても内心嬉しくなくもないのだが、 彼女はあえて感情を押さえ、無表情で機械的に質問を発した。 「セリス様、どうなさいました?」 「…きみと話したくて…。今日はいい天気だよね。」 あくまで無邪気に問いかけるセリス。入院当初はユリアもこういう話につきあって いたのだが、それがもとでユリアの仕事が完全にストップし、 アルテナ婦長に叱られた事がある。 「…あの、セリス様…用事が無いときは呼ばないでと言ってあったと思いますが…」 目を伏せて遠慮がちに、ユリアは注意した。だが、セリスはひるまない。 「うん。だからきみと話したいんだよ。これって、用事でしょ?」 「いえあの、それは…」 反論しようとするユリアだが、セリスの笑顔に射すくめられると何も言えなくなってしまう。 こうなると、3時間はこの部屋から出してもらえないのだ。 婦長や看護婦たちも、もはやあきらめているようだった。 「ねえ、ユリア。このおかゆ、『あーん』って食べさせてよ。」 せっせと働くユリアの白衣と白い帽子は、誰が見ても頼もしさにあふれたものだ。 そんな彼女に、セリスは次から次へと無理難題を押しつけてくる。 ユリアとしては聞いてあげてもよいのだが、あまり甘えさせすぎるのも 困りものだと思い、ひとまず聞き返す。 「でも、セリス様は怪我も治ってきましたし、ご自分で食べられるでしょう?」 「…ううん、まだダメなんだ…手が痺れて…スプーンも持てない…」 さっきまでユリアの手をぎゅっと握っていたのは、この際言わないでおこう。 「でも…セリス様…」 ユリアがなおも抵抗しようとすると、セリスはじわっと目に涙を貯めた。 「うっ…ぐすっ…ユリアが意地悪する…。ぼくなんかいなくてもいいんだね。 おかゆが食べられなくって死んじゃってもいいんだ…っ…」 ベッドに突っ伏し、ぐすっ、ぐすっとぐずるセリス。こうなっては、 ユリアも手の施しようがない。 「…分かりました。セリス様のおっしゃることでしたら…」 ユリアがセリスのスプーンをとると、さっきまでの涙はどこへやら。 セリスはぱっと顔を輝かせて、今日もさっそく「あーん」体勢に入るのであった。 その他に、「ベッドから起きる時はユリアに抱っこ」 「体温はユリアの額で測定」など、毎日の定番メニューはことごとくセリスが決めていた。 これも、光の公子様の威光のなせるわざである。 当初全治一週間ほどだったセリスの怪我だが、なぜか退院は伸び伸びになり、 結局セリスは三ヶ月ほどの間毎日、専用看護婦ユリアのお世話になったという。 いかがでしたでしょうか。医は仁術と言われたのも今は昔。病院の扉の一つ向こうでは、 このような実態が放置されているのです。 さて次は、やはりセリス様が患者でユリア様が看護婦。 「セリス様盲腸手術!剃刀を持つユリアの手に汗はにじんで」編を お送りしま……きゃあっ! 何の話?
私は別にどこも悪くないけれど…。セ、セリス様…。えっとこれは…。 こ、この話はあくまでフィクションですので。 セリス様が医者だなんて聞いた事ないとか、そもそも治療の杖があるユグドラルに こんな病院が必要なのかとか、そういうことは言いっこなしですよ。フフッ。(汗) …続きをご覧になりたいですか?それでは、次の回へどうぞ。 |