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ユリアちゃんを笑わせよう〜小説ver.〜
マンスターでのことでした。 夕食を済ませ、洗い物をしていると、セリス様が厨房に顔を出 しました。 「ね、ユリア、ちょっといいかな?」 セリス様は戸口から手招きをしています。 わたしは少し迷ってから、「この洗い物が終わったら…」と言 おうとしましたが、側に居たラナが「ここは私がやっとくわ。 いってらっしゃいユリア。」と笑顔を向けてくれました。 「よかった。ありがとうラナ。ユリア、行こう。」 セリス様はそう、ラナに微笑むと、わたしの手をとり、やや足 早に歩き出しました。後にした厨房からは、わっとにぎやかな 声が聞こえてきました。 セリス様が向かったのは、お城の一番高い所にある塔の頂上で した。 窓が一つ開いていて、暗い部屋に光を差しています。セリス様 に促されて窓辺に立つと、広大な景色と、沈みかけた太陽がわ たしの目を奪いました。 「間に合ってよかった。」 セリス様は窓辺に身を乗り出して、じっと太陽を見つめました。 わたしもセリス様の隣に並んで、だんだん紅く染まってゆく 空を眺めていました。 太陽が沈んでゆくのはとても早くて…。解放軍に入る前には、 何度もこうして見たものだけど、最近はけが人の治療などに時 間を追われて、こんな風にゆっくりと見ることがありませんで した。 セリス様と並んで見る夕日は本当に美しくて、今のこの瞬間が 永遠に続けばいいのに…と心から思うのでした。 わたしのそんな願いも空しく、太陽は最後に最高に世界を紅く 染め…やがて沈んでしまいました。 太陽が沈むと、とたんに辺りは闇に飲み込まれました。セリス 様は持ってきたランプに火を灯し、ほの暗い明かりの中で微笑 みました。 「終わっちゃったね。」 終わり…。セリス様のその言葉が、胸に突き刺さりました。 セリス様と過ごす時間が終わってしまったから…それもあるか もしれません。その時わたしは、ずっと忘れていたある感情を、 思い出してしまったのです。 さみしい…と。 いたたまれない程の、どうしようもない寂しさがわたしを襲い ました。その不安を追い払うように、自分の体をギュッと抱き すくめました。 「…ユリア?どうしたの?」 ランプを窓枠に置いて、うつむくわたしの肩にそっと手を乗せ、 セリス様は気遣わしげにわたしを見ます。 「…本当はわかってた。わかっていたのに…」 そして、ずっと考えないようにしていた。考えると、不安にな るから。考えなければ、こわい思いもしないですむし、その日 の出来事を思い返しながら眠りにつくことができたのに。 わたしはこんなにも淋しさを感じる原因を知り、目を伏せまし た。 わたしが今、たくさんの人たちに囲まれて暮らしているのも、 今が戦争中だからなのです。今はこうしてセリス様と並んで夕 日を見ることもできるけれど、夕日が沈めば闇がくる。 自分が目指しているのは戦争の終結。でも世界に平和が訪れた 時…わたしはどうなってしまうの? そう、わたしには確かなものは何もない。記憶も、家族も、帰 るところも…。 「これまでの行軍の中で、きょうだいや、親戚と出会ってゆく 人たちを何人も見てきました。わたしにも、そんな家族がいた らいいのにって、いつも心のどこかで期待しては、落ち込むこ とがたくさんありました。」 わたしは俯いたまま、心の内を口にしました。どうしてそうす るのか、自分でもわかりません。それまで目を向けようとしな かった自分の心を、見つめ直す意味も、あったのかもしれませ ん。 セリス様はただじっと、わたしの言葉に耳を傾けて下さいまし た。 「でも、さみしくなんてないと思いました。セリス様が、いて 下さるから。セリス様のことを考えると、とても心が温かくな って、頑張る勇気が湧いてくるから。」 …だけど。 その先に言おうとする言葉を考えると、胸が詰まって、口を開 くと涙が出てしまいそうで、わたしは口をつぐんでしまいまし た。 するとセリス様は、優しくわたしの頭を撫でて、こうおっしゃ いました。 「ゆっくりでいいよ。言いたいことがあるんでしょ? ぼくに遠慮なんていらないからさ…」 わたしはその言葉に、つかえが取れたように涙を溢れさせてし まいました。 わたしの言おうとしていることは、自分の弱さでした。 自分でも、見ないようにしていました。弱さを認めてしまうと、 だめになってしまう気がしたから。 だけど、自分の弱さも、醜さも、セリス様には知っていて欲し いと思いました。そうすることで、自分の嫌いな面も、目を逸 らさずに受け止められる気がしたのです。 わたしは、震える声で、溜め込んでいたものを吐き出すように 話し始めました。 「だけど…この戦争が終わったら、わたしはどうなるんだろう って。 以前のわたしは、さみしいとか、孤独だとかほとんど感じなか った。一人でいることが当たり前だったし、誰かと触れ合う楽 しさも知らなかった。 だけど今は、とてもこわいのです…。あの頃の生活に戻ること が…ほとんど口を開くこともなく終える毎日に戻るのが…。 セリス様のいない日々を送ることが、こわくて仕方がないので す…」 戦争なんて大嫌い。毎日人と人が殺しあって、傷つけあって…。 戦争なんて、早く終わればいいのに。そう、思っているはずな のに…。 「不謹慎…ですね……。」 暮れて闇に飲まれていく景色がこわくて、わがままな自分が情 けなくて。 わたしはセリス様の目を見ることもできずに、ただ流してしまった 涙を拭くことしかできませんでした。 セリス様はすっとわたしの前に両手を差し出し、こう言いまし た。 「ユリア、手を出して。」 わたしが涙で濡れた両手を言われるままに差し出すと、セリス 様はその手をご自分の手で包み込みました。わたしの涙で濡れ てしまうこともかまわず、しっかりと、けれど優しく握られた その手は、わたしの心まで温かく包んでくれるようでした。 「ぼくとユリアがこうして今手をつないでいるのも、この戦争 があったからかもしれない。 でもね、ユリアが今の生活を大切に思うのは、戦争のせいじゃ ないんだ。ぼくたちや、ユリア自身が見つけ出してきた、自分 の時間なんだよ。 ぼくにも迷うことはたくさんあるけど、一緒に歩いていこうよ。 そうして時々、心配なことはぼくに相談してさ。」 …ああ。わたしは何度、セリス様に救われたことでしょう。 青く優しい瞳に、心地よい声の響きに、手から伝わるその温も りに。 そしてセリス様の言葉は、いつだってわたしに勇気を与えてく れるのです。 「はい…はい。セリス様…」 わたしは何度もうなずきました。 戦争の終結を願う気持ちと、この生活が終わるのを恐れる気持 ち。それは矛盾していて、責められるべき感情だと思っていた。 そして、そんなことを願う自分が嫌いだった。でも、セリス 様はそんな感情さえも受け止めてくれた。それだけで、さっき よりもほんの少し、強くなれたような気がしました。 「それに…ね。行く当てがなくて淋しいんだったら…」 セリス様は視線を逸らし、ソワソワした様子で言いました。 そして次に発せられた言葉に、わたしは耳を疑いました。 「ぼくのところにいるといいよ。」 「ぼくだったらユリアを一人になんてしないし…ユリアに淋し い思いなんてさせないよ!たとえ忙しくってもユリアと毎日話 はするし、時間つくっていろんな所を見に行こう!今日みたい に近いとこじゃなくてさ。」 身を乗り出して、早口でおっしゃるセリス様を、わたしはじっと 見つめていました。いいえ。その時自分がどんな感情なのか、 どんな表情をしていいのか、わからなかったのです。 「も…もし、ユリアさえ良かったら…だけど。」 セリス様はうつむいて、小さな声で付け足しました。 わたしは、ようやく自分が嬉しいのだということを理解しました。 考えたこともありませんでした。驚きと、とまどいもあり ます。ただ、一つ確かなことは、喜びで全身が震え上がりそう なほど、自分は嬉しいということでした。 「本当に…本当に、よろしいのですか…!?」 歓喜と、そして信じられないという不安で身を震わせながら言 うわたしに、セリス様は深くうなづきました。わたしは、言い ようのない喜びに目を輝かせました。霧のかかった未来に、突 然光が差し込んでくるようでした。この先の未来にも、セリス 様と共に過ごすわたしがいる。そう思うと、どんな困難にも立 ち向かっていける勇気が湧いてくるのでした。 「それで…その。ぼくと…けっ…けっ…けっこ……」 「?」 さっきよりももっとソワソワした様子で、セリス様は落ち着き がありませんでした。わたしは目をぱちくりさせて、セリス様 を見つめました。 「だっだから…ぼくと!けっ…結婚…してほしいんだ…」 これ以上ないくらい顔は真っ赤で、目はキョロキョロしている し、しどろもどろでした。 「だ…だめ…かな?」 いつの間にかうつむき、肩を震わせているわたしの上で、不安 そうなセリス様の声が聞こえました。 「ぷっ…」 「???」 「あはっ…あはははははっ…おかしいっ…セリス様っ…!」 わたしはとうとう抑えきれずに、笑い出してしまいました。 セリス様は赤い顔のまま、きょとんとした表情をしています。 その様子がとてもおかしくて、わたしはますます笑いが止まら なくなるのでした。 「…むうっ。ひどいなあ!今のは笑うとこじゃないよ!本気に してないの?」 「ご、ごめんなさい…でも、セリス様があんまり真っ赤だから …ふふっあははははは…」 セリス様はとうとうご機嫌を損ねて頬を膨らましてしまいまし た。わたしは悪いと思いながらも、どうしても止まらないので した。 「そ、そんなにおかしいかなあ…」 セリス様のとまどいの声が聞こえます。 でも、わたしには分かっているのです。嬉しくて、嬉しくてど うしようもない自分が。そうして目の前で困っているセリス様 がたまらなく愛しくて…笑っていることを。 「…うん。やっぱりユリアは笑ったカオも可愛いや。」 ふと、セリス様がそんなことをおっしゃったので、わたしは急 に恥ずかしくなって両手で顔を隠してしまいました。 「あれ?なんで隠すの?カワイイのに。」 「かっ、可愛くなんてっ…」 セリス様がからかうような瞳でわたしを覗き込みます。 そして、急に真剣な表情になって、こう言うのです。 「可愛いよ。ユリアは。誰よりも。」 わたしはその言葉に、ますます体が熱くなるのを感じました。 今のわたしはきっと、さっきのセリス様と同じか、それ以上に 顔が赤いでしょう。セリス様の仕返しなのでしょうか…。 「あははっユリアがゆでだこになった。」 「も、もうっ。セリス様っっ!」 セリス様にからかわれて体を起こすと、突然視界が揺らぎまし た。 わたしは、セリス様の腕の中に抱かれていました。 「ユリア……愛してるんだ。ずっと側にいてほしい…!」 「セリス様…」 どうして、こんなに幸せだと感じるのでしょう。 初めて出会ったのはほんの数ヶ月前。それなのに今は、セリス 様を知らずに生きてきたあの頃が信じられないのです。 この人の温もりを感じられることが、こんなにも幸せ。わたし は案外、単純な生きものなのかもしれません…。 「わたしも…わたしも、あなたを愛しています。あなたのいな い世界など、もう考えられません…。」 闇に染まった窓の外へ目をやると、空には星が輝いていました。 あれが、空を彩るあの星々が、「希望」なのですね。 真っ暗な世界で光るあの星々に、人はどれほど慰められたこと でしょう。 全てを映し出す太陽ほど強い光ではないけれど、こんなに美し い星があるなら、夜空もさみしくないですね。 セリス様、あなたは目を向けることも困難な太陽ではありませ んでした。闇ばかり見ていては気が付かないけれど、いつもそ うして優しく世界を包んでいてくれた、あの星々という希望の 光こそが、セリス様。あなた、だったのですね…。 セリス様、わたし、わかったの。 誰かの前で微笑むことができるのは、強さだということ。 誰かを本当に好きになったり、自分の弱さを見せることを恐れ てはいけないということ。 傷つくことを恐れていては、幸福には出会えないということ。 セリス様、あなたが教えてくれたのです。 笑うことのできる強さを。笑うことで得られる幸福を。 わたしの幸せは、あなただということを…。 END (ちょーじん様からのコメント) ああ、本当にくっさくさですね(笑)。わたしの文章 の中のユリアってかなり弱い人かもしれません。「ユリアだっ たら」じゃなくて「私がユリアだったら」で考えているからか もしれません。心理的な面は。しかも爆笑してるし(汗)。と いうか私の書くシリアスっていっつも弱さが題材になってしま います。セリスは「からかう人」ですしねえ…。ふざけた後で 真剣になるというのは前にもあったパターンですし。今気付き ました。 本当はセリスがユリアに笑って〜とか言う前フリがあったんで すが、あまりにもしょぼいので端折ってしまいました。(汗) 小説としてもアレなかんじですし、ユリアはここでこんなに大 喜びせんだろうとか疑問も浮かぶ代物ですが。ここまで読んで くださってありがとうございました。 (マルチくうねるより)こちらは、ちょーじん様から投稿していただいた小説です。 なんでも、ある少女漫画を読んで、ユリアがこんなふうに笑ってほしい…と 思ったのが、執筆のきっかけとか。 ユリアはゲーム版でもセリスに「やっと笑ってくれたね」と言われるように、 普段は表情の起伏が少なく、無表情な人のように思われます。 ユリアは、なぜ笑わないのか。彼女にとって、笑いとは何なのか。 そんな謎に対する、これが一つの答えなのかもしれません。 感情を表に出して、しっかり笑うことができるというのは、 相手に心を許し、自分をしっかり見せることができてこそ、ですよね。 セリスと出会うことで、笑いを見つけることができたユリアは、 きっと、またひとつ強くなったのでしょう…。 感想を伝えたいという方は、ちょーじん様あてに メールでお願いします。(ぺこり) |