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shine
いつでも一緒にいたい、それは貴女だから。 もっと貴女のことを知りたい―……貴女が、好きだから。 ―……快晴。 空が澄み渡り、太陽が眩しいほどに光を放っている。そんな日は、彼女の銀の髪は瞳が痛くなるほど輝くのを知っていた。 「ユリア、疲れてない?」 声をかけると隣を歩いていた少女がこちらを向く。大きな紫水晶の瞳が自分の姿を捕らえ、ふっくらとした唇がかすかに微笑む。 「はい、私なら大丈夫です」 「よかった。ほら……最近ユリア忙しかったみたいだから」 セリス率いる解放軍は今アルスターに在住している。イザークでレヴィンからユリアを預かり、それからすぐにイザーク解放。それから「死の砂漠」の異名をとるイード砂漠を超え、セリスたちは休むことなく戦ってきた。 軍を率いる立場のセリスと、後方支援に位置するユリアとでは、まったくと言っていいほど会う時間がなかった。こうして二人でのんびりとすごすのは、随分と久しぶりのことだ。 「こうしてゆっくり話すのも久しぶりだね」 改まると何を話していいかわからなくなってくる。立ち止まって見つめ合うと、自然と頬が赤みを帯びてくる。 「はい」 「実は明日、ラナの誕生日なんだ。それでユリアに一緒にプレゼントを選んでもらおうかと思って」 「そうだったのですか」 セリスの言葉に、ユリアがくすくすと笑った。理由もなくユリアを誘いにきたものの、セリスは城下町へ行こうと言っただけ。ただぶらぶらと街を歩いていたのだが、先ほどからなにやらセリスがそわそわしていたのは、それが言い出しにくかったからなのだろうか。 「小さい頃はいいけど、もう今は女の子に何をあげていいかわからなくって……」 「セリス様らしいです」 「そんなに笑わないでよ、ユリア」 至近距離で見つめられ、ユリアは急に恥ずかしくなった。ぱっとセリスから瞳をそらし、静かに足を進めていく。セリスは急いでユリアの後を追った。 「女の子って、どうゆうものが好きかな」 「アクセサリーなんかはいかがでしょう」 ユリアが立ち止まり、露店を覗き込む。宝石をあしらった大小様々の指輪や耳飾り、ペンダントやマントの留め金まで、幅広い種類が置いてあった。 うーん、とセリスが小さくうなった。 「どれがいいと思う?」 「この指輪はどうでしょう。ラナさんに似合いそう」 ユリアが指差したのは、小さな宝石がついた花の形の指輪。セリスは小さく首を振って、ユリアを見つめる。 「指輪は……その」 「え?」 恋人にしか、あげたいと思わないんだ―……小さな呟きはユリアに届いたのか、届かなかったのかはわからない。じっと青い瞳に見つめられ、気まずそうにユリアが目をそらした。 二人の関係がどうであれ、このやりとりをみていた露店の売り子は二人が恋人同士だと思った。ユリアが次に指差そうとした手をそっとつかみあげ、ユリアの瞳と同じ淡い紫水晶の宝石のついた指輪を、そっとはめこんだ。 「お姉さんにはこれが似合うよ。瞳と同じ色の、この指輪」 「あ、私は……」 私へのプレゼントを選びに来たわけではないの、とユリアが慌てる。すぐに指輪を外そうとしたユリアだったが、すぐにさえぎられた。 「あ、いいよ!ユリア」 「セリス様?」 「それユリアに似合っているし……その、ユリアにプレゼントさせて」 「そんな……ラナさんのお誕生日のプレゼントを買いに来られたのに」 「ラナには別なものを買うし、それはユリアへの誕生日プレゼントってことで……」 言ってからセリスは、しまったと思った。それとほぼ同時にユリアがうつむき、表情に影を落とす―……記憶の無いユリアに、自分の誕生日なんてわかるはずがないのに。 それから言葉を閉ざしてしまったユリアを気使うように、売り子はセリスに別の飾りを押し付けて、買い物を強引におわらさせる。 帰り道会話が無い二人のように、快晴だった空がかげって行った。 記憶がないって、どうゆうことなのだろう。 ユリアと出会ってから、セリスはしばしばこう考えるときがある。よく何かを忘れておもいだせないときがあるが、そんなようなことなのだろうか。 「……また、あんな顔をさせてしまった」 ごろり、と寝台の上を転がる。 いつも笑っていて欲しいのに、いつも自分の一言のせいでユリアから笑顔を奪ってしまう―……ほんのささいなことでもユリアのことを知りたくて、過去のことをふっと聞いてしまうからだ。 ユリアが記憶の無い自分を卑下するように―……セリスもまた不安を抱えているユリアを支えてあげられないことに憤りを感じている。心から、愛しているというのに。 セリスは煮えくり返らない気持ちで起き上がり、転がって乱れた髪を適当に整えると、部屋を出た。 向かった先は、ユリアの部屋である。 「―……ユリア、いる?」 夜中なので、もし寝ていたら起こしてはならない―……セリスは小さくノックをして、扉の向こうへ呼びかけてみる。 しばらく待ってみるが反応が無い。 寝ているのだろうと解釈し、セリスは扉に寄りかかった。 「―……ごめんね、ユリア」 君を笑わせてあげることが、できなくて。 セリスの呟きが静まり返った廊下に響き、セリスは口元に手を当てる。隣や向かえの部屋で寝ている人たちが起きてしまったらいけない。 その時、消え入りそうな声が聞こえてきた。 「セリス……様?」 消え入りそうな、尋ねるような声音。セリスが扉から背を離す前に扉が開かれ、セリスが短い声を上げながらそのまま後ろにひっくり返った。 「うわ……!」 「きゃっ!」 どさっと、大きな音がする。セリスは後頭部を打ち付けてしまい、その痛みに歯を食いしばった。 「っつ……」 「セリス様、大丈夫ですか!?」 床にしりもちをついて座っているセリスに、白い小さな手が差し出される。窓を開けているのか、部屋の中がとてもひんやりしている―……ユリアの銀色の髪がふわりと舞い、まるでユリアを覆っているオーラのように思えた。 「―……綺麗、だね」 「え?」 「ユリアは綺麗だ。髪も瞳も、心も―……だから僕は」 「それは、違います……」 「違う?」 「セリス様はお優しいから……私に同情しているだけです」 さぁ、とユリアが自分の手につかまるように促がす。セリスはユリアの手に自分の手を重ねると、強引にそのまま自分の方へ引いた。 予期せぬ行動に、ユリアがあっという間もなくバランスを崩し、セリスの腕の中に転がり込んできた。 「セリス様は私が怖くはないのですか?もし記憶が戻ったら―……まっさきに貴方のお命を奪ってしまうかもしれないのに」 「何を言って……」 「私は自分が誰か、知りません―……知らず知らず、戦場で自分の親をも傷つけているかもしれないというのに。本当はセリス様の隣にいることが、本当は怖くて仕方ないのです……!」 そこでセリスがユリアを力任せに抱きしめ、ぎりっと体の締め付ける音が聞こえる。あまりの痛みにユリアが顔をしかめ、苦痛の声を漏らした。 あまりの痛みにユリアがセリスの腕から逃れようとしたが、セリスはますます力を込めるばかりで、腕を放そうとしなかった。 「セリス様……っ、痛っ」 「絶対に僕はこの腕を離さない……!君が何者であっても、この気持ちは変わりはしない」 この締め付けるような痛みも、悲しみも。そして反対に壊れそうなほど愛しいと思う気持ちが、偽りなはずがない。 ユリアが敵だったら―……? そうだったら、この気持ちはかき消えてしまうというのか? その答えは、もう出ている。 ユリアが記憶のないことで、悩んでいるのを知った時から。 「だからユリア……逃げないで。僕はユリアのすべてを受け入れられるよ。だから素直な君の気持ちが聞きたいんだ」 自分を見つめる青い瞳に、自分の姿が映っている。 自分がこの人の瞳に映っている―……自分がこの人の目の前にいるという、たしかな証。 自分が此処にいるという、たしかな証拠。 「本当に……いいのですか?」 ユリアの唇にそっと触れながら、セリスが静かに頷いた。 私には記憶がない。 何者かもわからず、そして貴方の敵かもしれない。 王となるべく貴方の側にいるのに価しない、身分のない村娘かもしれない。 でもそれでも、いいと―……言ってくれた。 記憶がなくても、貴方の側にいたい。 自分が何者かわからなくても、貴方がいてくれれば、それで自分が生きていると実感できる。 もう言葉なんていらない。 もう過去なんていらない。 貴方が一緒に、いてくれれば―……。 (コメント by セリス様〜)こちらは、詩音様から相互リンク記念にいただいた小説です。 「ユリアが、記憶がないことで悩む話」というテーマで リクエストさせていただきました。 が…、それだけではなく、周囲もまた、 そんなユリアにどう接すればいいか戸惑うという 新しい視点が提示されました。 特にユリアが好きな人は、彼女の過去をも知りたいでしょうから、 どうしてもそれに触れたくなってしまうところがあり、 気持ちの整理をつけるのは難しいと思います。 そのあたりの描写がうまいと思いました。 ユリアのほうは、自分の素性について悩む姿と、 たとえどうあっても、「今」を大切に生きようと決意する姿との 対比は、美しいものですね。 あと、ユリアの部屋で彼女を自分の元に引き倒したセリスの 行動にどきどきしました(笑)。 感想を伝えたいという方は、詩音様のホームページ 蓮真館 さんに行かれるとよいでしょう。 |