光と闇、結ぶは正義の炎



「さあ、さっさと入るのじゃ。何もかも諦めてな…ふぉふぉふぉ」
「……。」

聖戦末期、ヴェルトマー城――――。
ユリア、それを取り囲む暗黒魔道士の一群、そしてそれを率いるマンフロイ。
抵抗する術も、気力もなく、ただうつむいたままマンフロイの導くがままに歩くしかないユリア。
だが城門の前に立ったその時、彼女は不意に足を止め、顔を上げた。
マンフロイは彼女の眼線を追おうとした。だがその必要はなかった。
ユリアがはっきりとした声でつぶやいたのだ。
「…ファイアーエムブレム。正義と英知を司る、お父様の紋章。そして…」
強い意志の光を宿した、紫の瞳でそれを見据えながら。

いぶかしんだマンフロイは彼女を、そして一群を促した。
ユリアは再び、抵抗するでもなく彼らと共に城内へ歩みを進める。
だが、その眼に宿った光は消えなかった…。


数日後…。グランベル城では、「雷神」イシュタルが皇帝ユリウスに出陣の要望を告げていた。
ユリウスは興味なさげに彼女に背を向けると、一言言い放った。
「ふっ…行くがいい」
「…では」
イシュタルも一礼すると、くるりと後ろを向いた。
だが退出するより前に、ユリウスが言葉を発した。
「ずいぶんと急だな。私が怖くなったか?」
ユリウスは彼女に背を向けたままだった。だからイシュタルも振り向かず、背中越しに言った。
「そのようなわけでは」
ふっ、と彼女の背後でユリウスの声が聞こえた。失笑か、嘲笑か、それとも自嘲なのか…。
最後まで2人は、互いに背を向け合ったままだった。
「…構わん、行って来い」
ユリウスの最後の一言。
いつも通り人を人とも思わない冷たい響きだったが、なぜかこの時イシュタルには、その言葉が一抹の寂しさを含んでいるように思えた。
いずれにせよ、その真偽は分からないままとなるが…。

「行ったか…城にこもっていれば死にもせんだろうに、仇討ちだと?そこまで愚かな女だったとはな」
ほぼ全ての兵士が寝返って消えるか出陣した中、1人ユリウスはがらんとした玉座の間にいた。
何をするでもない。ただ、何かが来るまで、1人でつぶやいているだけのこと。
「私は1人だ。この世界に1人だけの存在。至高にして孤高。ゆえに誰も私を理解できない。…私にも、凡人の思考は理解できない」
手元で不気味な重量感を保つロプトウスの書をもてあそびながら、彼はひとりずっと語り続けていた。
「すぐに味方は誰もいなくなる。だが、私にかないうる敵もいない。敵もいなくなる。
敵の始末が終われば…日和見の奴らも処分してしまおう。
他者に頼りきるだけの生物に、生きる価値などないのだから。
そしてただ私だけが残る。強い『個』だけが…。それこそロプトの理想。強い者の世界…」
そうやってどれだけ独り言を言っていたのか。不意に、音が聞こえてきた。
足音。2人だ。ゆっくりと歩いてくる。この玉座の間へ…。
ユリウスは何をするでもなく、かの忌まわしい魔道書を手にしたまま待っていた。
ゆっくりと玉座の間の門が開き…入ってきたのは、黒いマントとフードに身を包んだ男と女であった。
「暗黒司祭…マンフロイの手のものか」
男は一礼すると、もったいぶった様子で声高らかに話し始めた。
「ロプトウスの化身、陛下にはご機嫌麗しゅう。さらに本日この時を迎えるはまことに…」
「そんなことはどうでもいい。ヴェルトマー守備が最優先の中、一体何をしに来た」
ユリウスの不機嫌そうな言葉に、司祭は慌ててはいつくばった。
「は、大司教のご命令で、この者を陛下にお見せし、命令を仰ぐようにと」
そう言うと彼は、後ろで微動だにせず立ったままの黒マントの女に声をかけた。
「マントとフードを脱ぎ、陛下にご挨拶するのだ」
「…ハイ…」
女はうなずくと、ふわりとロプトの黒装束を脱ぎ捨てた。
ユリウスの目に、かすかな驚きと疑念が浮かんだ。

「…ユリア」

銀紫の長い髪。白い肌。淡い色の巫女装束。間違いなくユリウスの妹、ユリアだった。
違うとすれば、普段は涼しげな目元に影が差し、口元に冷たい笑みが浮かんでいること。
そして、澄んだ理性をたたえていたはずの紫の瞳が、今は狂気と恭順と媚びと憎悪をないまぜにした赤い濁った眼になっていること。
ユリアは笑みを浮かべたまま、その場にひざまづいた。
「ワタシは、ユリア。グランベル帝国の皇女にして、ろぷとうすの『シモベ』デス。
兄上にお目通りがかないまして…光栄の至りデス。
ワタシはまんふろい大司教サマの教えを受け、帝国のセイギに目覚めマシタ。
セイギの帝国に逆らう反乱軍は…ミンナ、コロシマス」
話し方や言葉の抑揚が明らかにおかしい。
「兄上、どうぞユリアに、ご命令ヲ。帝国の敵は、ミンナコロシマス…コロス…ククク…」
「殺す」という言葉を発することがたまらないらしく、ユリアは低い声で笑い始めた。
明らかに彼女は正気でない。
「マンフロイ得意の術か…こんな必要などなかろうに悪趣味な奴め」

数百年以上の時を生きているロプト教の大司教にして最長老のマンフロイは、失われた秘伝の法を数多く知っていた。
そのうちのひとつが洗脳術である。薬品や暗示など様々な手段を用い、人間の心を都合のいいようにねじ曲げる邪法だ。
これによって多くのロプト僧は暗黒神とその化身に絶対の忠誠を誓い、同時にひずんだ心を持つことになる。
はじめは上官に逆らわなくなるだけだが、やがて非人道的な行動や儀式に抵抗を感じなくなる。むしろ喜びを覚える。
命令によって子供狩りや虐殺を行っていた者達が、ついには自らそのような忌まわしい行為に手を染めるようになるのだ。
そしてその過程で拉致された子供達や奴隷が、また施術を受ける。
「暗黒教団」の異名はすべてこの秘法に起因するとも言えるのである。

「だが、ユリアがこうあっさりと術にかかるとは思えんがな…何をしたのだ」
興味を示し始めたユリウスに、暗黒司祭は嬉々として語り始めた。
「この娘、入城前にヴェルトマーの紋章に異常なほど興味を示しましてな」
「…ほう」
「当初マンフロイ様自らの施術にも強固に抵抗したものですから、それをネタにしてみたのです。
ヴェルトマー家の家訓である『正義』やら『審判』やらといった単語をちりばめていったわけですよ。
そのとたん、張り詰めていた精神に動揺を生じたらしく…」
ユリウスはじっと聞き入っていた。
「一度動揺を見せれば、あとは大司教様、手馴れたものです。
もともと心身の疲労、絶望、恐怖など材料は山ほどあるのですから、すぐ大人しくなりました。
しかもこの娘、極めて強力な魔力の持ち主です。戦場に放てば反乱軍に大打撃を与えられるでしょう」
ユリウスはにいっと笑ってうなずいてから、ふと眉間にしわを寄せた。
「…戦場に放つだと?大して厚手でもない巫女装束でか」
「むしろそれでいいのです!反乱軍もろともくたばってくれれば当面の大敵はいなくなり、我ら帝国は無敵の…」
そこまで言ったところで、彼はユリウスがなぜか機嫌を損ねていることに気付いた。
「お、お許しを!これはあくまでもマンフロイ様のお言葉でして、私は命令によりユリアを陛下の元へ…」
「そんなことはどうでもいい。ユリアはもうここにいるのだから、さっさとヴェルトマーに戻れ。大儀」
「は、ははあっ!」


「…ユリア、近くに寄るがいい」
司祭が逃げ帰るように退出した後、ユリウスとユリアは無言で向かい合っていた。
どれだけの時間が経ったのか…長い沈黙の後、ユリウスは玉座から立ち上がり、妹を呼んだのだ。
笑みを浮かべたまま、ユリアはユリウスの元に歩み寄った。
お互いの息が感じられるほどの距離。
ユリウスがこれほどまでに人を近づけるのは、イシュタルと戯れる時以外はありえない。
「ユリア。なぜ、ヴェルトマーの紋章程度で動揺した?」
「ククク…」
喉を鳴らす猫のように、低い声で笑い続けるユリア。人形相手に話すようなものか、とユリウスが考えた時
「帝国は、ヴぇるとまーはセイギの炎の血…誰よりも正しい…父上と兄上は正しいのデス…」
ユリアのつぶやきに、ユリウスはどきりとした。
彼女の言葉を聞いた瞬間、幼年時代の記憶が不意に蘇ったのだ。
今となっては遠い過去のようにしか思えないが、あまりにも鮮明に。


まだ子供の頃。普段は忙しく厳格な父が、政務の合間にユリウスとユリアを散歩に誘ってくれたのだ。
ヴェルトマー城の中庭を歩くうちに、兄妹がどちらともなく父に聞いた。今は何をしているのかと。
「帝国に逆らう敵をやっつける相談をしていたんだ」
父アルヴィスは表情を変えずにそう答えた。ユリウスは勇ましい情景を想像したが、ユリアは顔を曇らせた。
「お父様って…どうしていつもケンカするの?なんで仲良くできないの?」
「ケンカ?」
アルヴィスはその質問に意表を突かれたようだった。
「もう、ユリアは優しいんだからなあ…悪い奴は一度やっつけないといい子にならないんだよ」
ユリウスがさも当たり前というように答えたが、アルヴィスは首を振った。
「いや、ユリアの聞いたことは大切なことだ。…2人とも、座りなさい。大事な話だから」
父がこうやってゆっくり話してくれることなどめったにない。2人はすぐさま腰を下ろした。
アルヴィスも土の上に座った。
「2人とも、私のマントに描かれている紋章が何だか、わかるかな」
「ファラ様の紋章!」
兄妹は異口同音に答えた。
「そうだ。じゃあ、ファラ様はどんな人だったか。習っただろう?」
「え、えっと聖戦士様で…」
ユリウスはそこで詰まった。何だったっけ。それに対してユリアの回答はすらすらと出てきた。
「火の聖戦士様で、ファラフレイムっていう魔法を使える人で、わたしたちヴェルトマー家の祖先…でいいよね、お父様」
「うむ。…不勉強だな、ユリウス」
父の恐ろしい目に睨まれ、ユリウスはすくみ上がった。こんなところでお説教か。
だがアルヴィスはそれをせず、自分のマント留めとそこに描かれた紋章を見せながら話し始めたのだ。
「ヴェルトマー、つまりファラの血を引く我々の象徴は炎だ。炎とはどんなものだと思う?」
ユリウスとユリアはすぐさま、しかし全く別々の答えをした。
「よくないものを燃やしたり、敵をやっつけたりするもの!」
「あったかくて、明るい。人を、守ってくれる」
アルヴィスはその両方の答えに深くうなずいた。
「どちらも正解だ。だがそれだけじゃない。
炎は人間の頭の良さや、文化のはじまりと進歩も意味するのだ。
炎がなければおいしい料理は作れないし、夜は寒い。獣を追い払うのも、暗いところで生活するのも難しいだろう?
炎を手に入れることで、人間は他の生き物よりずっと賢くなることができたのだ。
賢さをもたらし、敵を倒し、家族や味方を暖め、公平に照らす光を作り、皆を守る…
炎は強く賢く正しい…つまり『正義』のシンボルだと言えるのだよ」
「『正義』…」
兄妹はつぶやいた。
「だが、『正義』を本当に行うのは言うよりずっと難しいのだ。
強いだけで賢くない人間は、ただの暴れん坊だ。
賢いだけで強くなければ、頭でっかちのつまらない人間だ。
しかし強くて賢くても、ひいきや不公平を平気でするなら……」
「悪い奴だ!でしょ、父上」
「にいさま!お父様がお話してくださってるのに」
勢いのいいユリウスとそれをたしなめるユリアに、アルヴィスは苦笑しながらうなずいた。
「2人ともそれでいいのだ。ユリウスは賢さを見せたし、ユリアは正しいことをしようとしたのだから」
和らいでいたアルヴィスの顔が、再び引き締まった。
「お前たちもヴェルトマーの一族。正義の人たる義務がある。
正義を実行するためには、自分が正義でなくてはならない。
正義であるためには、常に自分を磨かねばならない。強く賢く、何より正しくなければならないのだ。
私は戦争もしている。厳しいこともしている。だが、正義に背くことはするまいと誓っている。
未来の皇帝として、その妹として…努力するのだぞ、ユリウス、ユリア」
アルヴィスの真摯な瞳に、2人も真剣な顔つきで答えた。
「はい!ぼくは『正義』のため頑張ります!」
「わたしも…にいさまやお父様、お母様のため、強くなります」
アルヴィスは満足そうにうなずいた。
「さて…私はもう政務に戻らねばならない。ユリウス、お前はすぐ勉強部屋に戻れ」
「ええ!?自由時間なのに何で?」
「先ほどファラについて答えられなかったのは問題外だ。正義のために勉強しろ!」
「ひ、ひどいよ父上…」


「『正義』か…」
10年も前の記憶がよくここまで鮮明に蘇ったものだ。そう思いながら、ユリウスはそっとつぶやいた。
「ハイ。セイギのため、反乱軍は全部コロシマス、お兄様」
愛らしい人形が、その単語に反応してうなづいた。
こいつは、ユリアは知らないのだ。あの男が何をしていたのかを。
アルヴィスの側近に、軍事面の副官を務めるアイーダという女性がいたこと。
彼女とアルヴィスの間に、ひとりの男児が誕生していたこと。
そしてその子供に、ファラフレイムの力と聖痕が継承されていたということを。
成長して、ふとしたことからその事実を知ってしまったとき、ユリウスの中で何かが壊れた。
母をずっと愛するはずでありながら、『正義』と言っておきながら。
そして自分には『正義』を継承する資格すらないとは。
マンフロイの差し出した暗黒魔道書をあっさりと受け入れたのは、単なる暗黒の血だけでない。
ロプトウスの尋常ならざる力に悦楽を覚え、正気を失い、魔道書のささやくまま母を手にかけたのは事実だ。
だがアイーダを殺害し、父を圧迫し、恐ろしい圧政を敷いたのは、ユリウス自身の意思なのだ。
そして、右往左往し、生きるため従い、時に愚かにも逆らう人間を笑い、自分の力に酔っていたのも。
「正義だと?くだらんな、ユリア。私が力を振るえば振るうほど、人間は媚びるだけではないか。
どこにも正義などない。正義の味方など現われはしない。ククク…」
「お兄様が、セイギデス」
そのあまりにも単純な答えに、ユリウスは失笑を漏らした。
「愚かな妹だ…それはお前がマンフロイの術によって洗脳され、そう思い込まされているだけのこと。
本当の『セイギ』ならば、洗脳術などで揺らがないくらい強いのではないか?
私が正しいのなら、お前はなぜ今まで解放軍と行動を共にしていた?」
ユリアの答えはない。
自分はただの操り人形相手に何を望んでいるのだ。
「…記憶ヲ失っていたとき、ワタシはただ生きるため、戦いマシタ」
「!?」
表情を変えずうつろに笑ったままだ。だが、ユリアが話し始めた。術をかけられていながら。
「ヒトをコロス帝国は『悪』デス、と思っていマシタ。
父上やお兄様に会い、記憶を取り戻したとき、混乱しましたし、変わったお兄様を憎みマシタ。
…でも同時に、お兄様の中に残っている気持ちを感じマシタ…
セカイに満ちているおかしいことや正しくないことへの怒り、それヲ正せない、直せない絶望、
でもそれを直したいと思う気持ち…それがまだ残っている、って」
「…私にか?」
「ハイ。だからワタシは迷いマシタ…。
お兄様ヲ治すことはできないのか、昔のように、セイギを思い出させることはできないのか…
ファラの紋章を見たとき、過去の記憶ヲ思い出し…もっと混乱してしまって…
強く賢く、やさしかった『にいさま』に、戻っていただけないのか、と」
いつしかユリウスの顔から、いつもの傲慢な笑みが消え去っていた。一方ユリアは変わらず笑みを浮かべている。
「でも大丈夫デス。まんふろい大司教様の術によって、迷いは消えマシタ。
ワタシはお兄様にお仕えし、お兄様に『セイギ』を思い出していただき、正しいセカイを作るために働きマス。
父上や母上のためにも」
「ククク…」
ユリウスの顔に自嘲的な歪んだ笑みが浮かんだ。
「私はロプトの化身。母上を殺したのは私。父上を死に追いやったのも私。大陸中が私を憎んでいる。
さらにお前はマンフロイの命ずるがままに動くよう操られているだけの存在だ。
それでどうやって『セイギ』を貫くというのだ?」
ユリアは静かに言った。
「帝国で一番大事なのは、まんふろい大司教ではなくお兄様デス…。
そしてお兄様なら、きっとセイギを思い出すだけの強さと賢さを持っていますわ」
無駄だ。ユリウスはそう言おうとした。
自分は血に汚れすぎている。暴虐の楽しみを知りすぎている。
いくら自分の意思が残っていようと、もはやこの暗黒道から抜け出すだけの強い意志力はない。
だが言えなかった。妹にだけは、それを言いたくなかった。
代わりに出てきたのは、次の言葉だった。
「そこまで言うなら…私の妹にふさわしい『正義』の力とやらを見せてみろ」


翌朝―――。緋色の衣をまとったユリアが、解放軍の本陣へ向けて進撃を始めた。
阻むものを次々と攻撃しながら。


その数時間前のこと。
「女官。ユリアに戦化粧と…それから、これを着せてやれ」
「はい。…これは?」
「余計なことは聞くな。さっさとやれ」
ほどなく支度を終えたユリアが現れた。
炎のように赤く彩られた目元と口紅が、彼女のつり上がった瞳と不気味な微笑みを引き立てていた。
そして巫女装束の上に、透き通るような薄手の絹でできた緋色の衣。
髪の色こそ紫銀ではあるが、今のユリアは、ナーガというよりファラの血を引く戦士に見える。
「魔法戦士アイーダの着ていたものだが…。思ったとおり、良く似合う。
肌の露出は多いが…その衣にかかっている魔力、下手な鎧よりもお前を守るはずだ」
「あいーだ…?」
「どうでもいいことだ。…さて、お前に命じる」
一呼吸置いて、ユリウスは冷たく言った。
「私に認められたくば、反乱軍を皆殺しにし、生還して来い」
ユリアも冷たい声で答えた。
「ハイ、お兄様。帝国に仇なす反乱軍は、ミンナコロシマス…ククク」
化粧によってか、その笑い方には妖艶さが加わっていた。
「賢い妹だ。ククク…」
ユリウスも思わず笑い出した。
赤い髪と紫銀の髪、容姿は違いながら、似たように笑う兄妹。


ユリアが出陣して、再びがらんとした玉座の間。そこでユリウスは1人座っていた。
自分とよく似た笑い方の妹を思い出しながら。
赤い瞳、闇に侵された思考、破壊衝動――――。
昔からあまり似ていない兄妹だと言われていたが、今の彼女は限りなく自分と似通っていた。
「私も…操り人形なのかもしれんな」
操られながらも自分の意思を残していたユリアに、彼は少なからず興味を覚えていた。
彼女がずっとあのままでいられるはずはないのに。
操られたままでいるうちに心も体も闇に染まってしまう、それが普通なのだから。
だが、もしユリウスがユリアを助け、ユリアもユリウスを支えてくれたとしたら?
これ以上手を互いの血で汚すこともない、昔のような、共に支えあう兄妹になれるのではないか?
「…くだらん。何を考えているのだ、私は」
衣ひとつの力だけでユリアが生きて帰るとは思えない。
だが、万に一つでもマンフロイの術を打ち破るほどの強力な術者がいれば、ユリアは罪深い自分を止めに来る。間違いなく。
そしてユリアの生死に関わらず、自分が無数の解放軍相手に勝てる気もしない。
遅すぎたのだ。自分に残っていた気持ち、可能性に気付くことが。

どうでもいい。全てはユリアが戻ってきたら考えるとしよう。




 セリス(コメント by マルチくうねる)
 こちらは、磯辺巻き様から投稿していただいた小説です。

 ユリウスとユリア。兄妹でありながら、光と闇という両極に分かたれた二人。
 ともに、なぜ「闇」状態になったのかは謎が多いのですが、 ここに示されているのは、そのひとつの可能性だと思います。
 もし二人が意思を通わせていたら、聖戦とは別の結末があるかもしれません。 炎と正義というつながりがあったのですから…。

 感想を伝えたいという方は、磯辺巻きさんあてに メールでお願いします。


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