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十二魔将報告書
報告 此度集った十二魔将について。十二人とも、 過去の魔将に比べ精神面が安定しないものの、 身体能力的には過去のサンプルを大幅に上回る。 実戦に投入しても個人で戦況を変えるだけの力を有すると思われる。 とはいえ、思わぬところで精神錯乱などが発生するため、実戦投入には不安が残る。 引き続き、精神調整を要する。 人格面では個体差こそあるが、共通した変化が見られる。攻撃性の向上、 外見的嗜好の変化(肌の露出や化粧など)、人間に対する優越感などである。 特に、規律・束縛の多い元僧侶ほど変化が著しい。 続いて、魔将個々の報告に移る。人格把握の一例として、 各魔将の口癖に近い言葉も併記する。 NO1.アインス(バロン) 人間名ナンナ。ノディオン王家の血を引く騎士。 ユリア皇女の魔術に心を奪われ傘下に入り、以後忠誠を尽くす。 心の弱点を突かれ魔将になったのではないため、精神面は最も安定。 人を惹きつける天性の魅力があるため、魔将のリーダー格となっている模様。 また、安定した人格と優れた魅力ゆえ人間の社会への潜入も容易。 工作に向いている。 ただし、心を闇につなぎとめるものがない分、 自分がなぜロプトに仕えているのか疑問視している模様。定期的な調整を要する。 「私は黒騎士。主人はユリア皇女。すべてはあの方の瞳のために…」 NO2.ツヴァイ(マーシナリー) 人間名ラクチェ。オードの血を引く剣士。 ロプトの魔剣を手にしたことにより人斬りの魅力にとりつかれ、我等の元に来る。 もともと流星剣を使いこなす優れた剣士である上に、 魔剣の力で強化されているため戦場では恐るべき力を発揮するであろう。 だが、戦いだけを目的とするため平時の抑制は難しい。 同じく魔剣の僕であるノインとは共鳴するところがあるため、 二人合わせれば抑えることができるかもしれない。 「私は強くなったわ…流星剣で、切り裂いてあげる…」 NO3.ドライ(ウォーリア) 人間名カリン。シレジアの天馬騎士。 力を求める意志から我等ロプトの気と共鳴し神殿を訪ね、後に心身の改造を受ける。 外見は小柄な娘だが、改造によって人間離れした力を得ており、膂力は魔将でも随一。 まだ若いせいか、それとも改造の影響か「恐怖」や「死」の感覚が欠如しており、 物を壊すような感覚で戦いを楽しむ傾向がある。 記憶の操作は成功。ユリア皇女・マンフロイ大司教に心酔しており、 自分が洗脳されているという意識もないため管理は容易。ただし、 時おり記憶を取り戻すほどの意志力を有しており、この点には注意が必要。 「あたしは操り人形じゃない。マンフロイ様の忠実な戦士よ」 NO4.フィーア(ハイプリースト) 人間名リノアン。ターラ公女、元同市市長。ヘイムの血族。 婚約者と護衛、二人の男を同時に愛してしまい、罪の意識からか都市を離れる。 その後、楽になりたいという望みから我等の誘いに乗り、魔法による改造を受ける。 血ゆえか高い魔力を持ち、「呪いの装束」や「魔剣」といった魔法具の開発に貢献。 様々な魔法を使いこなすため、戦力としても期待できる。 精神面は比較的安定しているが、改造の影響か惚れっぽくなっている模様。 「心を抑え込むのが神の教え?違うはずです。 魅力的なお方が多くいらっしゃるこの世で我慢など…」 NO5.フュンフ(スナイパー) 人間名パティ。ウルの血を引く盗賊。 好んで孤児の世話をしていたが、 世話だけで自分の時間が失われていくことを無意識のうちに恐れていた。 孤児を捨てても何も感じなくなる心を与えられて解放感を覚え、魔将となった。 「呪いの装束」最初のサンプル。多くの魔将に発生する記憶の復活、 動揺を封じることに成功。元の能力に加えて感情の変化がないため、 暗殺や潜入に優れた適性を見せる。口調や表情は生来の陽気なものだが感情は既に消えている。 通称「忍び人形」。管理は容易だが、命令以外のことをできないため臨機応変性に欠ける。 「命令されるのがスキ。感じるのは喜びだけで、何にも考えなくていいもん!」 NO6.ゼクス(マージファイター) 人間名ティニー。フリージ公女。 告白、戦場での働きなどあらゆることで自信を持てず、 また果断な義姉イシュタルと比べて弱気な己を嫌悪し、 闇の魔力による変化を求めて魔将となる。 強化後はトールハンマーを使いこなす魔力を得、 マージファイターとしての力量も大幅に向上。 雷神イシュタルをも上回る実力と思われる。 人格面も大幅に変化。フリージ特有の「怒りの血」―復讐を好み、 公事より自分の感情を優先する性質―に闇の力が作用したのか、 気まぐれで支配的な性格に。皇女に忠誠は誓っているものの、 今の目的は「自分を役立たずと思ってた皆に力を見せてやる」ことに尽きるらしい。 現在の自分に酔っているため、元の人格を取り戻す可能性は低いが、扱いには注意が必要。 「私を役立たず扱いした多くの人々、私に振り向かなかったあの人… みんなに思い知らせてやりますわ」 NO7.ズィーベン(ビショップ) 人間名サフィ。ターラの修道女。 レンスター軍に参戦していた間に軍隊の影の面 (どんな規律ある軍にも見られるものではあるが)を見、 「正義の軍」の矛盾を感じた。聖戦後、行方不明となったリノアンを追う途中、 レンスター軍山賊討伐隊が(誤って)一掃した後の村を見たことで「正義」「光」の言葉に絶望。 既に我等の手にあったリノアン=フィーアの術によりロプトに救いを見出し、 暗黒神の僧侶となる。 魔力は高いが、戦闘よりも魔法具開発に本領を発揮。 フィーア、エルフと共に開発に貢献、特に三人の中でも洗脳技術に長ける。 神の教えを説いていた立場上、人を自分の考えになびかせることを好むためであろう。 口調などに変化はないが、肌の露出や化粧を好むようになり性格が明らかに変化。 精神面は安定。(洗脳のせいもあるが)ブラギ教の布教と違って 容易に人をしもべにできるロプト教に共感しているためであろう。 妹も教団にいるため、「サフィ」に戻る可能性は限りなく低い。 「神の声をお聞きください…貴方に力を、私達に忠実な下僕を授けてくださる暗黒神のお声を」 NO8.アハト(セイジ) 人間名サラ。マンフロイ大司教の孫。 聖戦後人の目に付かないところで暮らしていたが、 迷いの森同様の自由なき生活に不満を持っていた模様。 我等の調査により発見された後、何の抵抗もせずイード神殿に来て改造を受ける。 改造後は二十歳程度の女性に成長。 闇の血を濃く引いているためか、優れた闇魔道士。常に微笑を浮かべ、 敵をいたぶる戦い方を好む。斧使いドライと相性がよい。 前記したように成長体となっているが、人格は一切変化がない。 相変わらず口数が極端に少なく、考え方も不明。 大体は皇女や大司教に従順であるし記憶操作も成功しているはずだが、 不意に過去の記憶を思い出す。最も管理しにくい魔将。最高の注意を要する。 「…あたしは、あたし」 NO9.ノイン(ソードマスター) 人間名マリータ。オードの傍系。 旅の途中、ツヴァイと同時に魔剣に支配され魔将として覚醒した。 月光剣を使いこなし、更には未熟ながら流星剣も習得しているという。 魔剣との共鳴度も良好。以前「暗黒の剣」に支配されたことがあるせいか、 魔剣と魂の融合がツヴァイより早いようである。 定期的に人を斬らないと抑えが利かなくなるが、ツヴァイと共にいる間は比較的安定する。 管理は難しい方に入るが、命令には従順であり記憶の復活もない。 魔剣の支配が更に進めば、最も扱いやすい魔将の一人となるであろう。 「剣よ、あたしの魂を食らって…あたしにもっと、力と、斬る快感をちょうだい」 NO10.ツェーン(ダークビショップ) 人間名マナ。イザーク出身の僧侶。 セリス公子への身分違いの想いが報われず自暴自棄になっていたところを かつての友人であるユリア皇女に誘われ、人の世を捨てて魔将となった。 特別な血を引いていないため魔力はそれほど強くないが、 攻撃性が非常に強く前線での戦いを好む。そのため、 魔道士でありながら優れた耐久性・俊敏性を付加してある。 戦闘スタイル同様、性格も攻撃的かつ冷酷。特に自分を「見捨てた」 セリス及び彼の臣民に対する憎悪が強く、戦闘意欲は高い。 忠誠も篤く信頼できるが、記憶が復活しやすいのが難点である。 皇女の声を聞くことで回復するものの、何らかの処置を要する。 「セリス…あなたは私が殺す。私の手で消し飛ばしてあげる」 NO11.エルフ(シャーマン) 人間名ティナ。ターラの僧侶、サフィ=ズィーベンの妹。 姉を追い旅に出た先で魔法を幾度も失敗、自分の幼さと未熟さを痛感。 成長するため、力を得るためにロプトに従うことを決意、 強化魔法によって二十歳程度に成長する。 他項でも記した通り、フュンフやズィーベンらと共に開発に貢献。 姉同様に洗脳技術に長けるが、彼女の場合は人格の破壊や歪曲をより得意とする。 成長前の悪戯心が増幅された結果であろう。戦闘でもバサークの杖を特に好む。 人格面は極めて安定。同じく魔力で成長体となったサラ=アハトと比べると 容易にロプトの力に馴染んでいる。成長段階で心身ともに闇に染まりきっており、 光の側に戻ることはないであろう。理想的な実験体である。 「あたしは大人に生まれ変わった。もう失敗なんかしない。あなたを確実に、狂わせてあげるね…」 NO12.ツヴェルフ(シーフファイター) 人間名ラーラ。踊り子出身の盗賊。 こちらが探し始める前に我等の動向に気付き、独力で潜入したところを捕獲。 過去の辛い記憶をかきたてることで「辛さを感じる『心』を捨てたい」と思い込ませ、 魔将に改造することに成功。 「呪いの装束」サンプル第二号。自我は消滅しているが、 一号のパティ=フュンフと異なり、多少の擬似感情を有する。 そのため簡単な交流・情報収集も可能。 純粋な性能ではフュンフに劣るが、その分、汎用性が高い。 また、闇の魔力を帯びた彼女の踊りは見る者の心を一時的に操ることが可能。 効果は一時的なものだが、使い方によっては相当の効果を発揮するであろう。 ただし(擬似感情は所持するものの) 命令なしでは何もできない点ではフュンフとほぼ変わらない。 人格復活のない程度に自立性を与える必要あり。 「命令をくれれば踊ってあげる。一緒に人形になろうよ…!」 神殿の自室で闇魔道士の報告を聞いて、ユリアは言った。 「まだ完全ではないようですが、魔将の調整は進んでいるようですね。 そろそろ実際に能力を試すべきでしょう。準備を進めなさい」 「はっ」 闇魔道士が退室すると、ユリアは傍らのマンフロイの方を振り返った。 「大司教様、よろしいでしょう?今こそ兄上の遺志を継ぎ、行動を始める時と思います」 「うむ。まだ全面戦争を仕掛ける力はないが、各地で行動を起こすのはよかろう。やるがいい。」 「はい。兄上、ロプトウス様、そして大司教様のために…」 にこりと微笑む、黒い魔道衣姿のユリア。そのユリアを見ながら、 マンフロイは彼のみ聞いた報告を思い出していた。 NO.0 ユリア(ダークプリンセス) ユリウス陛下の妹君。恐るべきナーガの直系。 兄であるセリスと結ばれぬ絶望から闇に染まり、意思を捨てる道を選ぶ。 その後、マンフロイ大司教を始めとする暗黒司祭の洗脳術により闇の皇女として覚醒。 ロプトウスの継承者となる。 以前の弱気な態度から転じて女帝の気品を身につけ、ロプトの象徴に相応しい。 魔力も素晴らしく、ナーガの直系も絶えた今、彼女を討ち取れるものはいないであろう。 特筆すべきは、ロプトウスらしからぬその従順さ。元の気性ゆえか、 女性ゆえか、それともかつての光の血の影響か、驚くほどマンフロイ大司教に忠実。 帝国建国の暁には、マンフロイ大司教が事実上の支配者となるであろう。ただし… 密かにほくそえむマンフロイは、しかし、報告の最後を聞き逃していた。 …ただし、記憶や人格操作を施してもセリスの名は忘れていない模様。 彼を従え、愛人としたいとの事。危険な兆候ゆえ、一層の用心を必要とする… (コメント by マルチくうねる)こちらは、磯辺巻き様から投稿していただいた小説です。 今までのシリーズの総決算となる報告書。こうしてみると、闇の中にいる 彼女たちの微妙な違いがよく分かります。 今後、活動を開始した彼女らがどう動き、 新グランベル王国の人たちがどう対応するか…、 そしてその中でセリスとユリアの関係がどう関わってくるか。 そんな展開が楽しみに想像されるものです。 感想を伝えたいという方は、磯辺巻きさんあてに メールでお願いします。(ぺこり) |