セリス セリス様論


 セリス えーと…。ここでは、この私、 セリスについての話をしろということなんですが…。自分で自分の話をするのも、 なんだか照れくさいですね。ここはユリア、きみがぼくのことを話してくれるかな?

 ユリア えっ、わたしが……ですか?……分かりました。 セリス様がそうおっしゃるなら…。


 では、わたしたち解放軍の盟主、セリス様の人となりについて、わたしなりの考えを申し上げる ことに致します。…わたし個人にとっても、セリス様は大切な方ですが、そちらについては別に 場所を設けて、そちらでお話しいたしますね。


1.シグルド様の優しさとフォルセティ様の厳しさ
 わたしはしばらくの間セリス様を間近で見てきましたが…。セリス様は、色々な側面を持った 奥の深い性格をしていらっしゃると思います。ここでは、セリス様が胸の内に抱えていらっしゃる 二つの側面、「優しさ」「厳しさ」についてお話しします。理想主義と 現実主義、と言い換えてもよろしいかと存じます。

 「優しさ」については、申し上げるまでも無いことでしょうか。セリス様は、周りの人々が 苦しむのを、ただ黙って見ていられるような方ではありません。だからこそ、皆を救うために 挙兵されたのです(…これについては、後で詳しくお話しします)。
 また、民衆はもちろん、わたしたち解放軍の一人一人の立場、思いを、本当に気にかけて くださいます。アレス王子やティニーさんなど、必ずしもはじめからセリス様の味方という訳では 無かった方も、セリス様の志に触れ、その優しさに気づいて、ここに居場所を見つけて くださいました。トラキアにこだわり続けたアリオーン王子も、セリス様の意気を継いだ アルテナ王女が説得してくださいました。セリス様は結局、間接的に彼も救ったと言えるのでは ないでしょうか。
 こうしたセリス様の優しさは、シグルド様から受け継がれたものであると思います。
 敵国の王子・シャナン様を保護され、そのために国を追われたシグルド様…。 敵味方という立場を問わず、みんなを救おうとなさる、シグルド様の優しさは、多くの人を 引きつけました。史上まれに見る多国籍の軍隊は、シグルド様の優しさから来る人間的魅力に よって結びついたのだと思います。 そして、グランベル帝国の公式の歴史記録では「反逆者」であるシグルド様は、 悲劇の英雄として人々の間で称えられてきたのです。
 そのご遺志は、オイフェ様、シャナン様、エーディン様などを通じてセリス様たちに伝えられ、 セリス様の血肉となっていったのだと思います。

 しかし、セリス様がただ「優しい」だけの方だったら、恐らくセリス様はシグルド様と同じ 運命を辿っておられたのではないかと思います。シグルド様ではなくセリス様だけが持って おられるもの…。それが、現実を見据えて、時に冷徹な判断を下す、「厳しさ」なのです。
 セリス様は聖戦を行い、ロプト帝国からユグドラル大陸を解放なさいました。 しかしそれは、ここに住む全ての人を救ったということではないのです。
 わたしたちは戦いの中で、数え切れないほどの兵士達を殺しました。 トラキアの英雄であるトラバント王やアリオーン王子に逆らい、 国内に侵略するセリス様は、トラキアの住民から厳しく糾弾されました。 善政を行っていたイシュトー王子とその恋人…、理解しあえたはずの彼らを、 セリス様は救うことが出来ませんでした。…いいえ、「救いません」でした。
 もしかしたら、救うことが出来たかもしれないのです。
 セリス様の目的は、どう考えても狂っているあの時の帝国の圧政から人々を救うこと。 そのことを、もっともっと時間をかけて説得しつづければ、彼らの中にはそれを理解し、 わたしたちとの戦いを止めるひともより多く出てきたかもしれません。 あるいは、そもそも「戦争」という手段をとったのが正しかったか どうかという考え方もあり得ます。ロプト教徒といえど、長い時間をかけて話し合いを続ければ 和解でき、戦争をすることなく人々が安心して住めるような国になったかもしれない…。 それを否定は出来ません。…しかし、セリス様は、あえてそれをしなかったのです。

 セリス様が挙兵されたとき、その勢力は正直に申し上げて貧弱なものでした。 ユグドラル大陸のほぼ全域を支配するロプト帝国に比べれば足元にも及ばない勢力であり、 旗揚げの地がイザークという辺境でなければ、瞬時に帝国軍に打ち破られていたでしょう。 そんなセリス様が戦争に勝つには、戦力を集中させ、各地にいる帝国軍を短期決戦により 各個撃破する必要があり、帝国軍に統合的な戦略を練らせ、援軍を送らせる時間を与えては ならなかったのです。
 トラキアについてもそうです。セリス様はマンスターを解放された後、トラバント王が ミーズ城で兵力を整える前に、速攻でそこを陥落させました。トラキアの民衆から見れば 一方的な侵略に思えますが、最終的に帝国に勝つには、これは必要不可欠だったのです。 実際、トラバント王はブルーム王の軍隊と戦って疲弊したわたしたちを討つ構えでした。あそこで ミーズ城に陣取られて、そこからレンスター、アルスターなどへ縦横無尽に飛び回られては 戦術的にも非常に面倒ですし、レンスターの民を危険にさらすことになります。
 トラキアとの戦いは避けられない…、セリス様がその苦渋の決断を下されるまでに、どれほどの 迷いがあったことでしょうか。しかし、一度決断された後は、最も効果的な戦術を 駆使され、トラキアの竜騎士を打ち破られたのです。
 セリス様のこうした厳しさをはぐくまれた方としては、まず第一にレヴィン様…、いえ、 風のフォルセティ様が挙げられるでしょう。 フォルセティ様は竜族…、言わば、この世界を導く「神」のような存在と言えると思います。 彼のような、より高い視点、遠い視野を持つ方から見れば、人間などいずれ滅び行く存在であり、 一人一人の人の運命など大して興味は無いのかも知れません。この世界全体を、 より良い方向に導く、大局的なものの見方をされるように、わたしには思われます。 ロプト帝国の魔の手から世界を救うことがセリス様に課せられた大義であり、 そのための手段にこだわって結果を失うことは本末転倒であると考えられたのでしょう。
 また、オイフェ様やシャナン様など、シグルド様を知る方々も、セリス様にこういった 厳しさを教えられたのかもしれません。お二人は、シグルド様がなぜ滅びなければ ならなかったのかを考えられ、セリス様にそれを伝えられたのかもしれません。
 「おまえは、シグルドのようになどならなくて良い」と…。

 セリス様の指揮官レベルがシグルド様のそれよりも高い理由は、このあたりにあるのでは ないかと思います。
 セリス様は、シグルド様のように大局を見失う甘さを持たず、フォルセティ様ほど 一人一人の運命を軽く見切らず…。「優しさ」と「厳しさ」のバランスを程よく保った、 わたしたちを導くリーダーにふさわしいお方だと思います。


2.セリス様の自主性
 セリス様は、「光の公子」様です。 その名付け親は…、「神の意志」とでもいうべきでしょうか。
 ロプト帝国を倒す存在として「光」と、シグルド様の遺志を継ぐものとして「公子」と、 呼ばれることになったのです。しかし、セリス様自身は、その呼び名に違和感を感じておられる ように、わたしは見ています。

 レヴィン=フォルセティ様の目的は、セリス様を導き、ユグドラルに降臨した暗黒竜 ロプトウスを打倒することでした。セリス様は、結果としてフォルセティ様の思惑通りに 動いたと言えるでしょう。
 それでは、セリス様は、フォルセティ様の意思を実現するだけの、 操り人形だったのでしょうか?…わたしは、そうは思いません。

 セリス様が旗揚げされたときのことを思い出してください。セリス様に戦いを決意させた ものは、シグルド様の遺志でもなく、フォルセティ様の指示でもなく、民衆の要求でも ありませんでした……自分を育てた人々を守りたいという、 セリス様自身のお考えだったのです。
 その後も、セリス様は様々な経験を積まれます。イード城に残された落書きでは、 ロプトウスの復活を願う子供の純粋な心に触れられました。トラキアでは、レンスターの 国土から富を得ることが尊ばれる、独自の価値観を知ることになります。 その他にも、子供狩りを目の当たりにするなど、貴重な経験を数多く積まれています。
 セリス様は、こういった一つ一つの物事をご自身の目で、心で経験され、ご自身の頭で それについて考えたのです。ご自分の進むべき道を、フォルセティ様などの助けを得ながら、 常に模索しつづけていったのです。その結果取る行動が、たまたまフォルセティ様の目標と 一致したのです。
 フォルセティ様の手の平の中で踊らされたのではなく、フォルセティ様とは別の意図を 持って、あえて踊ることを選んだということですね。フォルセティ様に言わせれば、 そこまでひっくるめて、運命であるということになるのでしょうけれど。
 レヴィン様の去り際、セリス様は彼を「はるかなる異国の戦士、風のフォルセティよ」と 呼びます。それは、「あなたが私たちについて考えているのと同様に、 私もあなたの意図について考えている。私達は、使い使われる立場ではなく、 対等の友人なんだ」という意思表示だったのではないでしょうか。


3.戦争の目的、理由
 セリス様は、心の温かい方です。「目的」もなく人を殺せる方ではありません。 しかし、今まで申し上げたように、セリス様はご自身の将来を自らの手で切り開ける方ですから、 その「目的」は、フォルセティ様から教えられたことを信じただけの、借り物では ないはずです。ご自身なりの「目的」を持って、戦いつづけられたのだと思います。
 では、その「目的」とは、一体なんだったのでしょうか?普段は温厚なセリス様を 戦場という過酷な場所へと導くには、相当に強い「目的」が必要であろうと思います。
 物語の中でははっきり示されていない、セリス様の戦争の理由。 あなたは、何だと思われますか?

 セリス様の目的を、シグルド様、あるいはディアドラ母様に求める方もいらっしゃいますが…、 わたしは、疑問を感じます。セリス様は二歳になられる前にご両親と別れなければなりませんでした。 その後、オイフェ様たちからシグルド様たちの偉大さをお聞きしたとしても、セリス様の抱く 感情はシグルド様への「憧れ」ではあっても、お父上への「愛着」ではなかったのでは ないでしょうか?生みの親より育ての親…とも申します。 「シグルド様の敵討ち」であるとか、「シグルド様の遺志を継ぐ」、あるいは 「(まだ生きているかもしれない)ディアドラ母様に会いに行く」といったものが セリス様の「戦う理由」であるとは、わたしには思えないのです。

 わたしの考えを、申し上げましょう。セリス様は基本的に、 「周りにいる人々の笑顔を守るため」に剣を取ったのだと思います。ただ、細かい部分を 見ると、時期によってずいぶん差があるように見えます。詳しく見ていきましょう。

 ティルナノグ砦に敵軍が迫ったとき、そこにいたのは若い人達ばかりでした。 オイフェ様がいらっしゃれば、無謀とも言える挙兵に反対なさったのではないかと思います。 しかし、セリス様の身を案じるスカサハさん、ラクチェさんに、セリス様はおっしゃいました。
 「このティルナノグは大事なふるさとだし、 世話になった人達をおいて逃げるわけにはいかないよ」と。 「結果はわからないけど、今、 私たちでできることをせいいっぱいやってみよう」と。
 最終的な目的を果たすためには、もっと慎重になるべきだったかもしれません。しかし、 セリス様は、ご自分だけがかくまわれ、特別扱いされ、周りの人がそれによって迫害される…、 そんなことには耐えられなかったのです。先程申し上げた、セリス様の「優しさ」が 顕著に現れたと言えましょう。

 旗揚げの後、わたしたちは苦しみながらもイザークを、そしてマンスター地方を解放していきます。 セリス様は、解放した町の民衆にご自分が歓迎されるばかりでなく、光の公子として神聖化され、 熱狂的にあがめられて戸惑ったご様子でした。
 人々は、シグルド様のご遺志を継ぐものとして、グランベル王家の正当な後継者として、 セリス様を見ていらっしゃるのです。しかし、ティルナノグで育たれたセリス様ご自身は、 どうしてもそのような実感を持つことができなかったようです。
 このときのセリス様は、周囲の期待をよそに、「各都市の人々を帝国の圧政から 解放するため」という、局地的な目的で戦っておられたように思います。無論、 それは最終的には帝国打倒を意味するのですが、セリス様はまだそこまでの具体的な道筋を 描けてはいない…、ご自身の進むべき道を模索している途中であったのだと思います。 イシュトー王子との戦いには、セリス様の迷い、苦悩が窺われます。
 解放した城に住む人々の笑顔が、セリス様の心を満たしていった…。自分は間違っていないと 信じ、先へと進む原動力となったのでしょう。

 そんなセリス様に試練が襲いかかるのは、トラキアでのことです。トラキアの民は 自分たちに富をもたらすトラバント王を支持し、国内に侵略したセリス様を非難します。 これまで築き上げてきたセリス様の「都市解放者」というアイデンティティは崩れ、セリス様は 戦う理由を一から見直すことを迫られます。
 ミレトスやグランベルで帝国軍の本隊と戦うには、後背で蠢動するトラキア軍を 放っては置けないので戦う。そう割り切れば楽なのですが、セリス様はまだご自身の倫理観に こだわっておられるようでした。そうしている間にも、トラキアは容赦なく戦いをしかけて 来ます。割り切れない思いを抱えながらも、セリス様は自分たちが生きるために、また アルテナ王女を救う目的のために、戦争を続けられました。

 ミレトス地方に辿りついたとき、わたしは不覚にもマンフロイに捕らわれてしまいます。 セリス様はどのような思いでいらしたでしょうか…。そして、子供狩りが最も徹底して行われた この地方の惨状を目の当たりにしたとき、セリス様は初めて「ユグドラルの人が生きるために、 ロプト帝国を打倒する」という確固たる決意をされたように思います。 そのために必要ならば、どれだけ自分の手を血で汚しても構わないと…。
 同時に、人々が本当にセリス様に求めているものを、受け入れる決心をされました。
 人々は、セリス様に頼りきりであったわけではありません。自分たちも解放運動を行いながらも、 全ユグドラルにおけるまとめ役がいない為に散発的な反乱に終わり、帝国軍に各個撃破されて いたのです。人々がセリス様に求めていたのは、その能力よりもむしろ、「旗印」となる ことでした。英雄シグルド様の遺児であるセリス様に、自分たちの解放運動をまとめるための 旗印…、希望の光となることを願ったのです。
 それはある意味で、セリス様にとって歯がゆかった…、あまり認めたくなかったことかも 知れません。旗印になれるという資質は、シグルド様の代からの運命によって決まったことであり、 セリス様ご自身の意志や努力によって勝ち取ったものではないからです。 しかし同時に、それこそが、セリス様にしか出来ない役目でもありました。
 言葉は悪いですが、ここまで来たら徹底的に「道化役」としての道を行く…。 そこまで決心され、セリス様は吹っ切れたように思います。大陸を帝国から解放すると いう目標自体はもとから変わってはいないのですから、どうせならば とことんやってやろう、と。
 バーハラの丘で再びわたしの前に現れたセリス様は、まったく迷いのない顔をして いらっしゃいました。だから、わたしも戦う決心が出来たのです。

 ティルナノグの子供のリーダーから、ユグドラルを導く真のリーダーへ。
 セリス様は、戦いの中で一歩一歩、心の成長を遂げられたのです。


セリユリ このお話をするに当たって、以下の同人誌を参考に致しました。
 嵯峨竜樹様「風の道標」、麻宮彬様「farewell song」、水沢あやか様「カリスマNo.1」
お礼を申し上げます。
ありがとう、ユリア。これからも、ぼくといっしょに頑張ろうね。 アルヴィス皇帝が理想としながらもついに実現できなかった、平和で公平な世界。 君がいれば、それに少しでも近づくことが出来ると思う。
はい!セリス様。…あなたも、ここまで話を聞いていただいてありがとうございました。



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